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関西人Z 投稿日:2002/02/24(日) 16:40
短編第4弾 「人を好きになる理由」
中学教師になって2年目。
まだまだ新米だが俺は俺なりに頑張ってるつもりだ。
今日も小テストの採点を放課後を使ってしている。
ちなみに担当は国語である。「んー、この答えは微妙だな」
数学と違いキッチリした答えがないから、たまに迷うことがある。
そこが俺にとって国語のいいと思う所なのだ。
人からは変わり者呼ばわりされるときもあるが。「あの、先生」
「ん?」
呼びかけられ振り返ると、一人の女子生徒がノートを持ってやって来ていた。
(確かこの生徒は・・・高橋だったかな)
「どうした?」
「宿題で出された所なんですけど、どう答えていいかよく分からないんです」
「ほう、ちょっと見せて」
高橋はノートを開き指をさした。
「ここなんですけど」
「ああここか、ここはな―」一通り教えると、高橋は理解したみたいだ。
「ありがとうございました」
「ああ、他に質問はないな」
そう言うと、高橋は少し躊躇いがちに答えた。
「・・・あの、実はこれ以外にも質問があるんです」
「何の質問だ?」
「勉強以外のことなんですけど・・・」
(勉強以外?一体なんだ)
ふと時計を見ると、6時を回っていた。外も暗い。「外も暗くなってきたな、送ってやるからその間に答えてやろうか?」
「は、はい」
「よし、じゃあ帰る準備しな。門の所で待っててやるから」
「わかりました」
高橋は急いで職員室を出ていった。10分後
門前で待っていると、高橋が走ってやって来た。
「はぁ、はぁ、待たせてすみません」
「いいよ。じゃあ帰ろうか」
俺達は歩き出した。「・・・で、聞きたいことは何だ」
一瞬の沈黙のあと、高橋が話し出した。
「あの、人を好きになるってどんな感じなんですか」
「は?」
思いがけない質問だった。
「何故俺に訊く?」
「・・・先生じゃないとダメなんです。教えて下さい」
真剣に俺を見ている。
(真面目に答えなきゃダメか)
少し頭が痛い。
「答えてもいいが、理解できないと思うぞ」
「それでもいいんです。教えて下さい」
俺は少し考え、話し始めた。「好きになるってことはな、国語と一緒だと俺は思っている」
「?」
頭に?マークを出している。当然だろう。
「ちゃんとした答えが無いんだよ。たとえばある物語を100人読んだとするだろ。
そしたら100人分の感想があるんだ。それと一緒で人を好きになる理由は
人それぞれにあるって事だ」
「人それぞれ・・・」
「ああ。顔を好きになる人、性格を好きになる人、スポーツ姿を好きになる人、
色々ある」
「・・・」
「でもな、人を好きになる理由なんてあってないようなもんだ。
だから好きなら好きってだけでいいと思う。ま、俺の勝手な考えだが」
そう言い高橋の顔を見ると、ジッと俺の顔を見ていた。
「何だ?俺の顔に何かついてるか?」
「い、いえ。なんでもないです」
暗がりでよく見えないが、少し恥ずかしがっているように見えた。「・・・あと、もう一つ訊きたいんですけど」
(まだあるのか・・・。もうこうなれば何でも来いって感じだな)
「憧れと好きはどう違うんですか」
「こりゃまた難しい質問だ」
俺はまた、少し考えて話し始めた。「あくまで俺の考えだが、基本的には一緒だと思ってる。
ただ憧れってのは理想的というか『ああいう人になりたい、付き合いたい』
ていう願望が強いんじゃないかな」
「願望、ですか」
「うん。でも、無責任かもしれないけど、あんまり気にすることないと思うぞ。
お前はまだ若いんだし、色んな経験を積めばいい」
「・・・はい、分かりました」
元気良く答える。その顔は恋愛の悩みに対して少しだけ理解したのか、さっぱりしていた。「じゃあ私すぐそこなんで、ここで」
「おうそうか。・・・なあ」
「なんですか?」
俺は疑問に思ったことを言葉にした。
「何で俺に訊いたんだ?別に俺じゃなくてもよかっただろ」
そう言うと、高橋は笑顔でこう言った。「私、先生のことが、好きだからです」
俺は、ドキッとした。
「じゃあ先生、さようなら」
「お、おう」
高橋は走って行ってしまった。「・・・何中学生相手にドキッとしてるんだ、俺は」
まだ心臓が少しドキドキしている。
「・・・帰ろ」夜もだんだん更けていく中、俺は高橋の笑顔が忘れられない状態で家に帰った。
〜END〜