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関西人Z 投稿日:2002/03/01(金) 13:32

短編第6弾 「コンプレックス」

俺はいつものように彼女と茶店で喋っていた。
「でさー、私も思ったんだ」
彼女が嬉しそうに話をする。
そんな彼女を見ると俺も自然に笑顔になる。

彼女の名前は飯田圭織。165p以上ある長身の女性。
一見モデルをやっててもおかしくないスタイル。
俺の自慢の彼女だ。

しかし、俺には一つのコンプレックスがあった。
それは・・・、
「じゃあそろそろ行こうか」
「そうだね」
俺達は立ち上がった。
「圭織は先に出てていいよ。俺が払っとくから」
「ありがと」
俺は少しだけ目線を上げて喋った。

そう、圭織は俺より身長が高い。
それがコンプレックスだった。

俺の身長は159p。世の男性にとって、小さすぎる高さ。

デートの後、俺はいつも思うことがある。
『こんな小さくて、圭織の彼氏がつとまるのか』と。

友人からも「お前ら外から見たら姉弟みたいだな」と言われたこともある。
そうなると余計不安になってしまう。

付き合うきっかけとなったのは、圭織からの告白だった。
「あの、私と・・・付き合って下さい」
顔を赤くし、そう言ってくれた。
俺は嬉しくて即OKした。・・・しかし、
何故好きになったのかは未だに聞いていない。

「ハァ・・・」
「どうしたの?溜息なんかついて」
「え?・・・いや、別になんでもない」
俺達は公園に移動し、ベンチに腰掛けている。
無意識に出た溜息に、圭織が心配してくれた。
「そんなはずない、圭織にはわかるよ。だってあなたの彼女だもん」
「・・・」
「なにか悩みあるんじゃないの?それなら圭織が相談に乗るからさ、話してよ」
「・・・わかった」

俺は今まで不安に感じていたことを、圭織に話すことにした。 

「俺な、いつも圭織といるのが楽しいんだ」
「うん」
「でも、反面不安になることも多い」
「な、なんで?」
以外だったのだろう、驚き聞き返す圭織。
俺は圭織から目線を外した。
「俺さ、圭織より身長低いだろ?それが原因なんだ」
「・・・」
「圭織は背も高い、美人だしスタイルも良い。だから俺なんかに合うのかなって思ってたんだ。」
「・・・」
「友達からも言われてた。『釣り合いが悪い』とか『似合わない』って。
 そんなのを聞くと、なんか不安になってきた。だから―」
圭織の顔を見た。
すると圭織は・・・、
「・・・ウッウッ」
泣いていた。
「あ、あの、圭織?」
「・・・なんで、なんでそんな悲しい事言うの?」
「いや、なんでって」
「圭織はね、そんなの気にしないよ。だってあなたが好きなんだもん。
 それじゃダメなの?」
「だ、ダメって言うか・・・」
「ダメなんだ・・・。ウッ、ウエーーン!!」
きちんと答えないせいで、圭織は周りをはばからず大声で泣き出した。
(しまった!)
圭織はいつでも自分の感情を素直に出す。
楽しいときは笑い出し、悲しいときは泣き出す。
そんな圭織も好きなのだが、こういうときは少し困る。
(周りの人の目線が痛い・・・)
「ヒック、グス、ウエーン!」
こうなるとなかなか泣きやまない。
ただ、一つだけ泣きやます方法はある・・・が、
(周りは人いるし、どうしよう)
悩んでる間にも、通りすがる人が見てくる。
(もう迷ってる場合じゃない)
俺は意を決した。

「ウエーン!!」
圭織の顔を強引にこっちに向ける。
「ヒック、グス」
俺は、泣いている圭織に−

・・・・・・

口づけした。

「・・・」
数秒間経ち、そっと唇を離した。
圭織は泣きやむと同時に、きょとんとした顔で自分の唇をそっと触った。
何が起こったのかやっとわかったらしい。
顔に薄赤色が浮かんでくる。

「ダメじゃないよ。俺は圭織を愛してる。・・・信じてほしい」
俺は圭織の目を見て答えた。
吸い込まれそうな、黒水晶のような目で俺を見る圭織。
「・・・うん、信じるよ」
顔を赤らめ、笑顔で俺に抱きついてきた。

周りの人達は、ちらちらとこっちを向いていたが、気にならなかった。

「そう言えばさ、何で俺のこと好きになったの?」
耳元でそっと呟く。
「それはね・・・」
甘い声が、耳元に残る。
「小さいあなたが、好きだから・・・」

〜END〜