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関西人Z 投稿日:2002/03/04(月) 03:35

短編第7弾 「ひなまちゅり」

「ふあ〜、眠ぃ・・・」
昼近く、俺は目が覚めた。
「腹減ったなぁ」
目をこすりながら部屋を出る。
すると下から階段を上がってくる人とぶつかりそうになった。
「あ、やっと起きた」
「ん?ああ、真里か。どうした?」

同い歳の従妹の矢口真里である。

「どうしたじゃないよ。お昼ご飯出来てるのに起きてこないから起こしに来たの」
「ああ、そいつはすまんかった」
頭をポンポン叩いてやる。
「もう、いい加減子供扱いしないでよ」
俺の手を怒りながら払いのけて言った。
真里と会うと何故かからかいたくなる。
だからこうやって頭を叩くのは、俺流の挨拶みたいなもんだ。

「あのさ、今日何の日か知ってる」
昼飯の焼きそばを食ってる途中で真里が身を乗り出して聞いてきた。
「今日?・・・知らん」
「もう、今日は雛祭りなんだよ。女の子の日」
「うん。で?」
「そういうことで、今日は買い物に付き合ってね」
「は?」

いきなり何言ってんだこいつ。

「何で雛祭りってだけでお前の買い物に付き合わにゃならん?」
「アメリカの雛祭りじゃあ男は女に優しくして、言うことを聞かなきゃならないの。
 だから、買い物に付き合って」
「俺は日本人だ」
「いいじゃん」
「よくない」
「言うこと聞いてくれなきゃ泣く」
「勝手にしろよ」
いい加減相手にするのも疲れてきた。

無視して飯を食ってると、真里はゆっくり深呼吸し、そして
「きゃあー!犯されるー!!!」「ぶっ!(ご飯を吹き出す)」
大声でとんでもないことを言いやがった。
俺は急いで真里の口を塞いだ。

「ば、バカ野郎!何言い出すんだお前は」
目が笑っている真里。
俺が手を離すと真里が喋りだした。
「だってこれ位しないと、さ。キャハハハ」
(笑ってるよ・・・、悪魔の笑いだ・・・)
鬱状態になった。

「ねえ、どっちが似合う?」
これで何回目の質問だろう。
「んー、右の白がいいんじゃない」
適当に答える俺。もう飽きた。

1時間も同じ店で真里は服をどれにしようか迷っている。
また、俺がこっちが良いと言っても、
「うーん、でもなぁ」
と迷う。だったら俺に訊くな!

「あ、これかわいいなぁ」
赤色のパーカーを手に取る。
後ろには、何かの絵と文字が入っていた。
「これ良くない?」
「(また俺に訊くのかよ)いいんじゃないか?」
「ホントに?じゃあこれにしよ」
俺の言葉に真里はあっさり決めた。
(やれやれ、やっと解放される)
安堵しきっていた俺に、
「じゃあお会計よろしく」
と、悪魔の笑顔で言ってきた。
「何で俺が買わなきゃならん」
「言ったでしょ。今日は女の子を大事にする日だって」
「アメリカの事だろ?俺は日本人だ」
にらみ合う俺達。すると、
「言うこと聞いてくれなきゃ泣く」
と言ってきた。

勝手にしろ、と言いかけたとき、先ほどの情景が思い出された。
(そうだ、このままだとまたとんでもないことを言い出すんだった。)
真里を見ると、悪魔の笑みを浮かべている。
(クソー!)
俺は歯をギリギリと食いしばりながら怒りを抑え、服の会計を済ませた。

「いいねーこれ。最高!」
公園の中を歩きながら、真里は嬉しがっている。
ちなみに俺の財布は痛がっている。
「どうしたの?元気ないね」
俺の顔をのぞき込みながら、真里が話しかけてきた。
『お前のせいだ!』と言ってやりたかったが、その後の事を考えると出せないので、
「別に・・・」とだけ言っておいた。

途中ベンチに座って休憩していると、
「あ、オシッコ行きたくなってきた」
と、真里は言葉に出した。
「おい、年頃の女がそんなの口に出して言うなよ」
「別にいいじゃん。ちょっとトイレに行って来るね」
真里は駆け足で公衆トイレに向かった。
「ったく、あいつ一体何考えてんだ?」
俺は呆れていた。

しばらく経っても真里は帰ってこない。
「おかしいな」
気になった俺は、真里の行った公衆トイレに向かった。
その途中、
「離してよ!」
真里の声がした。
見回してみると、真里が2人の男に捕まっている。
「いいじゃねえか。俺達と遊ぼうぜ」
金色の長髪男が真里の腕を掴みながら言った。
「いやよ!他の人を誘いなさいよ!」
「俺達は、君がいいの」
もう一人、筋肉質の男がいやらしい目つきで真里を見ながら言った。

「いや!誰か助けて!!」
真里が叫んだ。その時、

バキッ
「ぐわっ」
そっと近づいた俺は、筋肉男を後ろから落ちていた木で殴った。

筋肉男は頭を抱えうずくまっている。
「だ、誰だお前は!?」
金髪男はびびったのか、声が裏返っていた。
「俺はその女の連れだが」
俺は一歩金髪男に踏み出すと、
「うっ」
長髪男は一歩後ずさった。その時、
「危ない!!」
不意に真里が叫んだ。
振り返ると、筋肉男が俺に殴りかかってきた。

ガンッ
「ぐっ!」
不意打ちを食らった俺は、気を失った。

「・・・ぇ!目を覚ましてよ、ねえ!」

耳元でうるさい声がする。

目を開けると、真里がいた。
「良かった・・・、生きてた」
その目には涙が溜まっていた。
「俺、どうしたんだ?」
「あの男達にやられたんだよ。大丈夫?」
そういえば体中あちこち痛い。
どうやら気を失った後も殴られたらしい。

「奴らは?」
「どっか行っちゃった」
「そうか、それはよかった。痛!!」
立ち上がろうとした俺は身体に痛みが走り、よろめいた。
「む、無理しちゃダメだよ」
「大丈夫だよ。にしても、散々な雛祭りだな」
俺は思わず苦笑した。

しかし真里は笑わず、じっとこっちを見た。
「そんなことないよ」
「何で?」
「だって、あなたは私を守ってくれた。私にとって最高の雛祭りだよ」
そう言って腕を組んできた。

「お、おい」

「これからも・・・、雛祭り以外でも、私を守ってね」

〜END〜