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どらい 投稿日:2002/03/08(金) 23:40

−別れ−

「翔!今日どこか遊びに行かねーか?」
「悪りい。今日ちょっと用事があるんだ」
「そっか。じゃまたこんどな」
「ああ。すまんな」

電話を切る。そして、線香に火を付ける。
あれから半年か。

――――――――

「翔くーん!おきてー!」

ひとみの声が頭の中で鳴り響く。

「はいはいはいはい。なんだよ。せっかくの休みぐらい寝かせろよ」
「せっかくの休みだからどっか出かけようよ!」

んなことぐらい一人で行けよ

「俺は寝たいんだ。一人で行けば?」
「一人がつまらないから誘ってるんじゃない」
「断る」
「ねぇー行こーよー」
「俺は眠いの」

「・・・・もういいよ!一人で行くもん!翔君のバーカ!」

フンッ!と言いながら部屋を出ていく。
全く。

一緒に暮らし始めて1年。
1年前、ひとみは親を亡くした。
親戚もいないので、幼なじみの俺のところで一緒に住んでいる。

・・・・昼。
いつもなら必ずひとみからメールが入るのだが。
そんなに怒らせたかな?

親も出かけていないし、やりたい放題。
そーいえば、今日はどこかでマラソンやるんだっけ。
ちょっと見てみるかな。元陸上部だし。

テレビを付けると、どのチャンネルもそれらしき中継はやっていない。
やっているとしたら、どのチャンネルも臨時ニュース。

「何だよこんな時に。またテロか?」

『・・・・繰り返しお伝えします。今日午前11時すぎ、
 JR山手線で列車2両を巻き込む脱線事故がありました。
 これまでに入った情報によりますと、少なくとも13人が死亡、
 40人が重軽傷を負ったということです。この影響で、・・・』

・・・そーいえば、ひとみのやつ、よく暇つぶしに山手線をぐるぐる回っていたような
・・・いつものメールも来ないし。巻き込まれたか?

・・・死ぬわけ・・・ねーよな。でも13人だもんな。

一気に不安に陥った俺は、ひとみに電話をしてみた。
繋がった。耳にコール音が聞こえてくる。
1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回・・・
・・・15回、16回・・・出ない。出てくれ。
・・・21回、22回・・・俺は電話を切った。

すぐに家を飛びだし、現場へ。もちろん山手線は不通。
地下鉄で一番近い駅まで行く。そこから走る。
走る・・・走った。こんなに走ったのは久しぶりだ。
救急車とすれ違う。人だかりが見える。あそこだ。

まだ救出作業は続いていた。次から次へと出てくる血まみれの人、人、ひと・・・み?

遠くからでよく分からなかったが、あの服は多分ひとみ。
腹部が真っ赤に染まっている。

「ひとみ!」

運び出されてきた。間違いない。
ひとみに駆け寄る。

「おい、ひとみ!きこえるか!?おい!」

担架に乗せられ、救急車へ。

「家族の者です。付添いいですか?」

救急隊員の了解を得て、俺も中へ。
家族、だよな。一応。

でも、本当の家族じゃなかったんだよな。家族亡くしてかわいそうだったよな。
でもよかったよ。またひとみの本当の家族と一緒になれたんだから。
1年ぶりに親の顔を見るって、どんな気分だった?

あの時、俺も一緒にいたら、暇つぶしに山手線なんて乗ってなかったんだろうな。
今、お前が生きてたら、俺たち、何してるんだろう?

あの日の翌日、俺はひとみの部屋から日記を見つけた。
家に来てから1年間の記録。
あいつにもいろいろあったんだな。楽しいこと。悲しいこと。辛いこと。嬉しいこと・・・。
そして分かったんだ。あいつは俺が好きだったんだ。

気付かなかった。家族のような存在だったから。
もし、好きだってこと気付いてたら、あの日ひとみは死ななかったのかな?

でも、気付いて、付き合ってたら、あの日の悲しみは倍以上だっただろうな。
死んでから気付いたから、寂しくなくてすむんだ。

ほら、歌にもあるじゃないか。
“それぞれひとつの life それぞれが選んだ style”

あいつが決めた生き方。恐らく、ひとみは家族に会いたかったのだろう。
会いたかったから・・・愛を捨てた。

俺は本当の家族と本当の愛、どっちを選ぶのだろう。