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どらい 投稿日:2002/03/11(月) 00:03
『・・・だから右辺と左辺が一緒になるでしょ?
それで終わりじゃない』
「あーなるほど」
『分かった?』
「うん。夜にいきなり聞いて悪かったな」
『いいよ。こっちもまだ起きてたし』俺の名前は笠原 健彦(かさはら たけひこ)。
高1まっしぐら。電話の相手は幼なじみの腐れ縁で、
隣の家に住んでいる石川梨華。「じゃーな」
『うん。おやすみ』時計を見ると午前1時。
(そろそろ寝るか)
「・・・ぅーん・・・」
目が覚める。時計を見ると昼の12時を指していた。
(もう12時か。よく寝たな)階段を下り、リビングに入ると、母親がいた。
「やっと起きたのかい?
いつまで寝てんだか」
「休みの時くらいいいだろ」
「もうすぐお昼だからね」
「はいはい」
「母さんちょっと調子悪いから、寝てるから」
「はいはい」普段と同じように昼食を済ませ、
なにげない時を過ごしていた。何気なくテレビを見ていた。
普段と変わりない昼下がり。・・・?
・・・カタカタカタ・・・・・・・ガガガガガガ・・・・
揺れを感じる。
(お? 地震か?)そう思った瞬間、
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・ダーーン!!
突然襲ってきた激しい揺れ。
「ぅぉわあーーー!」
もはや床に這い蹲るしかない。
バッシャーーン!!
食器棚が倒れ、窓ガラスが振動に耐えられずに割れる。
危険を感じた俺は、ガラスのない窓から外へ飛びだし、
表の道路に出る。揺れる地面の上を走っているので
走れない。歩けない。四つん這いでなんとか移動できた。車も制御がきかないようで、車同士がぶつかって止まる。
ガラーーン!!・・・バキバキ・・・ガッッシャーーン!!
ズゴーーン!!
バキバキバキ・・・・家が崩れ、木が倒れる。
もう何が何か分からない。
自分が今どこで何をしているのかも。ドドドドド・・・ゴゴゴゴゴ・・・
揺れがおさまった。
地響きでかき消されていた人々の悲鳴と叫びがこだまする。「・・・!!・・・た・・けて!」
「!」誰か叫んでいる。
「・・・たす・・て!」
「梨華か!?」家の方を見る。が、自分の家は建っているが、
隣の見慣れた建物がない。「梨華!!」
俺は梨華の家(があった場所)へ走り出す。
「どこだ!?」
がれきの山に向かって俺は叫ぶ。
「健彦・・・こっち・・・」
弱々しい声が聞こえる。いた。
家の下敷きになっている梨華を発見。「大丈夫か?」
そう言いながら梨華を引っぱり出す。
ボロボロになった梨華。
「怖かった・・・」
泣きながら俺に抱きついてきた。
強く服を握ってくる。「・・あさん・・・お母さんが・・」
その言葉でハッとした。俺も母親のことを忘れていた。
親父は出かけているからいないが。泣き崩れている梨華を、今度は俺が抱きしめた。
「俺もちょっと家の方見てくるから。ここにいろよ」
コクッと頷くのを確認した俺は、梨華をその場に残し、
自分の家に向かった。戻ってみると、何とも言えない無惨な家の姿。
家ってこんなに脆いんだ。いや、地震のエネルギーがすごいのか。微妙に傾いている家に入ってみる。
いつ余震が来るか分からない。
危険を背負って、どんどん中へ。
とりあえず必要な物・・・の前にまず家族。寝室に行ってみる。
「母さん!」・・がいない。
タンスが倒れている。恐らくその下に・・・
とりあえず通帳と印鑑と金と・・・
ポケットラジオって何処だ?
おっと、懐中電灯。
着替え・・・梨華、
かなりボロボロだったよな。女子が来てもおかしくない服を探し、
それも持っていく。それらを大きめのカバンに詰め込む。
水もいるな。
水・・・水・・・ねーのかよ。お、携帯と充電器も一応持っていこう。
電源は入れっぱなしだ。
【圏外】表示になっている。これから俺たちどうなるんだろう?
梨華の元へ戻る。
相変わらずボロボロの梨華が
座り込んでいる。「梨華」
梨華は返事もなく振り返る。
「服ボロボロだろ? これ」
服を渡すが、
「いいよ、悪いよ。それに何か恥ずかしいよ」
と断ってくる。
「じゃ、せめてこれだけでも着ろよ。
寒いだろ?」と言って、ウインドブレーカーの上下を手渡す。
寒かったのか、梨華はそれならといった感じで
それを着る。「これからどうしよう」
梨華が力無く聞いてくる。
「とりあえず小学校まで行こう」
そう言って二人は避難所に指定されている
近所の小学校に向かって歩き出す。家族も、住む場所も無くし、これからどう生活するのか。
俺はカバンからポケットラジオを取り出すと、
スイッチを付ける。
ラジオ第一放送に合わせると、やっている。
地震情報。震度7らしい。「手、つないで」
「ん? 別にいいよ。ほれ」そう言って手を出すと梨華は俺の手を握ってきた。
久しぶりに梨華と手をつないだ。小学校に着くと、近所の人達が結構集まってきていた。
すると、聞き慣れた声が。「健彦じゃねーか。梨華ちゃんも」
振り返ると、中学校まで一緒だった信之がいた。
「おー。久しぶりだな」
力無く返事を返した。
「すごかったな。地震」
「まあな」
「ま、とりあえず過酷な生活になるけど頑張ってこーぜ。じゃな」
「おー」よく見たら、信之には家族がいる。
「いいな、みんな。家族がいて。私たち独りぼっちなのに」
どことなく寂しそうな梨華。
「だったら、俺たち家族になればいいだろ?」
え?っといったような表情の梨華。
「さ、行こ」
と言って、今度は俺から梨華の手を握り、
校舎内へ入っていく。カバンから通帳を取り出す。全部で4つ。
親父が銀行と郵貯。お袋が銀行。俺が郵貯。340万、200万、132万、38万。
・・・710万か。
親父がもっと持っていると思ったが、
そんな贅沢は言えない。手持ちの現金が俺の小遣いと、家にあった親の財布で
20万くらいかな?梨華は黙って俺の持っている通帳を見ている。
それに気付いた俺は、「大丈夫だよ。二人で355万ずつだな」
高校生にしては明らかに高額。
しかし、これから生きて行くには足りなくなるかもしれない。「・・・めん」
「ん?」
「ゴメンね。私も何か持っていれば」
「何言ってんだよ。隣同士の長いつきあいだろ?
ほらぁ、そんな顔するなって」
「うん。ありがと・・・」
「それに今日から一緒に居るんだろ?
ずっと一緒だったら家族のようなもんだよ」
「うん。じゃ、ひとつお願いしてもいい?」
「なんだよ」「家族になった証拠」
「・・・は?」
「だから、その・・・キス、してほしい」
「・・・んな゛! ここでか!?」教室にはまだ誰もいない。
「・・・まだ誰もいないよ」
「いや、だけど、そ・・・」
「私とは嫌?」寂しそうな表情に変わっていく梨華。
「嫌ならいいよ・・」
俯く梨華。
俺はそんな梨華を見たくなかった。
俺だって梨華にキスしたいさ。「梨華」
下を向いていた梨華を俺の方を向く。
「目、閉じてくれる?」
梨華は俺の方を向いたまま黙って目を閉じる。
ゆっくり梨華に近づく。・・・そっと唇を重ねる。
柔らかい感触。梨華の温かさが伝わってくる。
唇を離すと、梨華がそっと胸の中に入り込んできた。
俺もそんな梨華をそっと抱きしめる。「ありがと」
しばらくして、また梨華が口を開く。
「私、ずっと健彦のことが好きだったんだ。
昨日の電話の時、言おうと思ったけど、勇気がなかった。
でもね、家の下敷きの時、助けてくれた。
服も貸してくれた。二人は家族だって言ってくれた。
とても嬉しかった。
もう、離れたくないの。ずーっと一緒にいたい」俺の顔を見た梨華の顔が、とても可愛く見えた。
地震の後、初めて俺に見せた笑顔だった。「ああ。ずっと一緒にいよう。
家族は一緒に居るもんだよ」教室は、大きく西に傾いた太陽の陽が差し込んでいた。
どらい 投稿日:2002/03/14(木) 00:09 ID:ycJpeOTO
夜になって、避難する人の数が増えてきた。
自衛隊の救助も来たようだ。今日の晩飯は抜きだった。
携帯を見ると、あいかわらず圏外。
電池がもったいないので電源を切る。梨華はと言うと、今日はもう疲れたのか、
俺にもたれて眠っている。はじめは二人だけだったこの部屋も、
20人ほどの人が居る。
毛布も支給され、俺たちも一枚ずつもらった。寒いのか、たまに梨華が震える。
こんな時に風邪でも引いたらヤバイ。
そう思い、俺の毛布を掛けてやる。俺は、カバンから上着を取り出し、
そいつを毛布代わりにして寝る。こうやって、二人で寄り添って寝るのも
何年ぶりだろう。昔の記憶をたどっているうちに、
眠りについていった。朝――。
俺は空腹で目が覚めた。昨日の昼から何も食っていない。
横を見ると、スヤスヤ眠っている梨華の横顔。
普段は子供っぽい梨華も、寝顔はどこか大人びている。時計を持っていないので、携帯の電源をつけて確認する。
(まだ6時か)
「ぅうん・・・」
梨華がさらに俺の方へ寄りかかってくる。
頭が俺の胸にまで来ている。よく見ると、何か寝言を言っている。
「・・・ぁさん」
(・・・おかあさん・・・)
やっぱり寂しいんだ。
そんなの俺だって一緒だよ。
俺は、眠っている梨華を抱いた。
抱きながら、再び眠りについていった。あれから1週間。
「・・・けひこ」
「んん・・・」
「健彦!」
「・・・・ん? ん!」梨華の声で俺は目が覚めた。
「おはよ」
「あぁ・・・。おはよー」
「今日だね。部屋来るの」
「あ、そうか」そう。ここにも仮設住宅が100世帯分やってくる。
こんな狭いグランド(プラス周辺の空き地)に100世帯。入るんか?
ここの地区は300世帯あまりなので倍率はおよそ3倍。今日、その入居抽選が行われる。
12畳部屋と6畳部屋があったが、2人なので6畳部屋を申し込んだ。午後―
大型トラックが数台、学校のグランドに入ってきた。
もちろん荷台にはこれから仮設住宅になろうとしているそれ。少しして、組み立て作業が始まる。
次から次へと、プラモデルのように意図も簡単に出来ていくそれは、
コンテナを大きくしたような作りに感じられる。「只今より、仮設住宅への入居抽選が行われまーす」
なんとも間延びのしたハンドスピーカーからの声。「始まるよ。行こ!」
梨華の声で、教室の窓から“住宅街”を見ていた俺は、
教室に目を移す。すでに大半が部屋を出て、居なくなっている。
「おぅ。行こうか」
俺も梨華も、昔からクジ運が良かったわけではない。
部屋が当たる確率は、3分の1もない。どーせ当たんねーんだし。どーでもいーや。
「6畳の方が、残り3部屋ですね」
あーぁ、また寒い教室での生活かぁ。「・・・・当たらないね」
「いーんじゃないの。クジ運悪いんだし」「・・・・・最後のひとつ、選びたいと思います・・・・」
「出ようか。腹減ったよ。飯探しに行こ」
「そうだね」「・・えーと、142番。笠原さん」
「「あ」」
声が揃った。当たっちゃったよ。
「これ、まだいるの?」
「ん? ああ、もういいよ。捨てちゃえ」・・・・・・・・
「ちょ・・・・ちょっと、こんなに持てないよ〜・・ち・・おっと!」
「とかなんとか言いながら、持ってるじゃんかよ」・・・・・・・・
「カギ開いてないよ?」
「あ。もらいに行くの忘れてた」
「早く取ってくる!」
「へーい」・・・・・・・・
がちゃ。ガラガラ・・・・
ドアを開けると、まぁ、何とも言えん
ガランとした空間。「はい。新しい部屋。6畳の狭いところですが、
どうぞごゆっくり」
「なに一人でごちゃごちゃ言ってるの。引越作業再開!」夜、やっと引越作業が終わり、
“隣近所”の人達と挨拶ついでに騒いでいた。隣の部屋は姉弟が入居。ここも親を亡くしたらしい。
後藤さんだったかな?
んで、もう片方の隣は、女性が一人。
保田とか言う、オバチャンキャラ丸出しの人だ。
ついでに、その隣が中学の時同級生だった信之一家(両親と彼と妹)が
入居している。「へぇー。みんな若くていいなぁ」
「そう言う保田さんは?」
「あたし? いくつに見える?」俺「28歳」
ピク
梨華「27歳」
ピクピク・・・
信之「35歳」←!!
プツ!
の妹(希美)「30歳」
後藤家姉(真希)「29歳」ヒクヒクヒク・・・
の弟(ユウキ)「(ヤバイ・・・顔が引きつってる・・・お世辞でフォローしよ)
じ、18歳(いかん! 若すぎた! どう考えてもお世辞丸出し!)」おー。顔が戻った。
保田「あー惜しいなぁ。20歳でした」
全員「えーーーー!!!」
保田「えー!ってちょっと! なによ! あたしそんなに老けて見える? 35歳って。おい!」
信之「え!?え、あの、んと・・・そう!じ、じじじょジョークですよ、じジョーク!
そそそんな、ささ35歳なな訳ななないでしょ?」
俺「そ、そうそう! 人生たまにはジョークが必要でしょ!? ね?」保田「あ! ジョークね! あービックリした。あたしそこまで老けてるわけないもんね!ね?」
希美「そ、そうれす! そんなわけないれすよ。ね! おばちゃん! ・・・・あ」保田「ん!? おばちゃん?」
ピーンチ!! オバチャン警報発令! 3世帯6人に避難勧告!
俺「ああ! も、もうこんな時間だから、か帰ろうか! な!?」
真希「そ、そうだね。帰ろ帰ろ! ほ、ほら、ユウキ、帰ろ」
信之「おお俺たちも、もう寝ようか!」
希美「う、うん! ま、ままた明日!」全員「おやすみー!」
保田「ってコラ! ちょっと! オイ!」