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関西人Z 投稿日:2002/03/22(金) 21:47

短編第9弾 「悪夢?」

「く、来るな!!」
恐怖から思わず相手に怒鳴った。
「・・・」
目の前にはナイフを持った男が無言でにじり寄ってくる。

逃げなければ殺される、それはわかっていたが足がすくんで動けない。

男は俺の目の前に立つと、ナイフを2,3度手の中で弄び、
「・・・サヨナラ」
俺にめがけてナイフを振りかざす。
「うわーー!!!!!」
ナイフが目の前まで迫った。

「はっ!!」
飛び上がるように起きると、そこは見慣れた自分の部屋だった。
「ゆ、夢か・・・」
自分の顔を触ると、かなりの寝汗が吹き出していた。

時計を見ると、まだ朝の5時前だ。
「これで3日連続だな」

手の甲で汗を拭い、俺は呟いた。

――
「ふーん、悪夢を3日連続で見たんだ」
ジュースを飲みながら、友人が言った。
「ああ、だから最近寝不足気味で」

俺は家に遊びに来た友人に相談がてら、夢の話をしてみた。

「それも3日とも殺されそうになったって、心の病からきてんじゃないの?」
「心の病?別に最近何かあったわけじゃないんだけどなぁ」
色々と考えてみたが、大した問題もない。

「なあ、何か悪夢を見ない方法はないか?」
ダメ元で訊いてみる。

「うーん、そうだなあ・・・、あ!そういえば」
友人は何か思いついたのか、手をポンと叩いた。

「バイトの先輩が言ってたんだけど、寝るときに枕元に水色とピンク色の物を置けばいいって言ってたな」
「水色とピンク?それを置いてどうなるんだ?」
「確か、悪夢を見たときに天使が空から降りてきて悪夢を払ってくれるらしい」
「それ本当の話なのか?」
「どうだろうな。俺にはわからん」

・・・何か微妙だな。

「ま、今日の夜にでも試してみたら?」
「そうだなぁ」
追い払うねえ、本当の話なら有り難いんだが。


その日の夜
「これでいいのかな」
枕元に水色のマフラーとピンク色のタオルを置いてみた。
「ま、これで悪夢を見れなくなるなら楽なもんだ」

早速布団をかぶり、眠りについた。

(・・・これは、夢、だな)
なんとなく現実と違うとわかる。

寂れた風景、周りを見渡すと人影が見えた。

「ウソだろ・・・」
俺は目を見張った。

男が3人、1人目はナイフ、2人目は刀、3人目はチェーンソーを持っていた。
今まで、数人の男が出た事なんて一度もない。

思わず俺は逃げだそうとした。
しかし、
「え?」

後ろを向くといつの間にか壁ができていた。
(に、逃げられない!)
絶体絶命のピンチ。

男達がゆっくりと近づいてくる。
俺は恐怖で足が震えていた。

そして、男達が数メートルまで近づいた。
その時、

『お待ちなさい』
どこからか女の声がこだました。

俺は上を見上げた。
(ん?上から何か降りてきた)
目を凝らして見ると、どうやら人らしい。
(あれが、天使なのか?)
ゆっくりと俺の目の前に降り立った。

「・・・」
「お望み通り、悪夢を払いに来ました」
「・・・」

俺は言葉を失った。だって、
(どう見ても、ただのガキじゃねーか!)

格好は水色のローブを着ていて、背中にはピンクの羽根っぽいのがついてる。
(ん?天使の羽根って白じゃなかったっけ?)
と思いながらじろじろと目の前に立った天使(?)を見ていた。

「どうかしましたか?」
「いや、別に・・・。名前は?」
「里沙といいます。宜しくお願いします」
里沙ねぇ・・・、どう見ても天使のコスプレをしたガキにしか見えないが。
ま、いいや。

「で、どうやって悪夢を追い払うんだ」
「簡単です。あの男の人達に向かって呪文を唱えるだけです」

里沙は少し離れたところにいる立ち止まったままの男達を指さした。

「じゃあすぐにやってくれよ。このまま悪夢を見るようじゃ辛いからさ」
「しかし、追い払うためにはあなたの力も必要なんです。手伝ってくれますか?」
そりゃ俺自身の問題だからな。
「ああ、これで悪夢とおさらばできるならなんでもするぜ」
「わかりました。では」

ローブの中から何か模様の書かれたスティックを取り出した。
「このスティックを一緒に持っていただいて」
里沙はスティックの先を男達に向けた。
「呪文を唱えてくださればいいです」
「で、その呪文は?」
「今から言うのでしっかり覚えて下さい」
俺は真剣に耳を傾けた。

「呪文は、『ラ・ブ・ラ・ブー』です」

「・・・はい?」
何だ今のは。すごい笑顔で言ってたけど。
聞き間違いか?
「あの、もう一回言ってくれる?」
もう一度確かめてみる。

「はい。『ラ・ブ・ラ・ブー』です」

・・・頭が痛くなった。
何が悲しくて、成人になりかけの男がそんなこと言わなくちゃいけないんだ。

「・・・他の呪文はないのか?」
できればこの呪文は避けたい。が、
「ありません」
キッパリと言われた。

・・・余計に頭が痛くなった。

「ここで呪文を唱えないと、ずっと悪夢にうなされますよ」
そう言われると、反論もできない。

「・・・わかった。呪文を唱えるよ」
これ以上睡眠不足になるのは嫌なので仕方無く承諾した。

「わかりました。それでは私の手の上にあなたの手を重ねて下さい」

言われた通りに、里沙の手の上からスティックを持つ。

「それで一緒に呪文を唱えます。覚えてますね」
「あ、ああ。らぶらぶ〜、だろ?」
「違います。もっとにこやかに笑って『ラ・ブ・ラ・ブー』です」
「ら、『ラ・ブ・ラ・ブー』」

唇の端がかなり引きつった状態で唱えると、里沙は笑顔で

「そう、それです」
と言った。

「は、はは、そうですか・・・」
とにかく、一刻も早く終わらせよう。

「じゃあ行きますよ」
「ああ・・・」
スティックを持って男達に向ける。

「せーの」

「「ラ・ブ・ラ・ブー!!」」

呪文を唱え終わると同時に、黄金の光が男達に向かっていった。

男達が光の中に包まれると、今度は周りの景色に光に包まれた。
あまりにも眩しくて、俺は目を瞑った。

ゆっくりと目を開けると、先ほどの寂れた風景から華やかな風景に変わっていた。

「これで悪夢は追い払いました。これからは安眠できます」
「・・・そう願うよ」

また悪夢を見たらあの呪文唱えなきゃいけないんだからな。
それだけは勘弁願いたい。

「それでは役目も終えたので私は帰ります」
「ああ。世話になったな」
一応礼は言っとかないと。

「いえ、それが私の仕事ですから。ではまた明日」
「ああ。・・・ん?」

明日?

「なあ、明日ってどういう意味だ?悪夢は追い払ったんだろう?」
「ええ、今日の所は」

「今日の所は?」

「はい。これからも悪夢を見ないように毎日あなたの夢に現れます」
「何だって?」

「それでは、さようなら」

里沙は羽根を広げ、宙を舞った。
「おい、ちょっと待て。そんな話し聞いてないぞ。コラ、俺の話を聞け!」

俺の叫び声が、辺り一面むなしく響いた。

〜END〜