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関西人Z 投稿日:2002/04/01(月) 00:54

短編第10弾 「花見」

春、市民公園は桜が満開である。
それを見ているだけでも癒される気分だ。

しかし、今は・・・、

「おらー、飲め飲めー!!」
「おっしゃ!俺が一気してやる」
「きゃー!そーれ、一気、一気」

桜の木の下でシートを敷き、同級生が騒いでいる。

中3になりクラスが変わった。

俺が入ったクラスの女担任が親睦を深めようということで、クラス全員で花見をしに来た。
お陰でみんな仲良く一気などしている(中身はジュースだが
しかし俺はこういう雰囲気が少し苦手だ。

端の方でジュースを飲んでいると、担任がやってきた。
「何やお前、おとなしいやないか。もっと騒がんかい」
酒をガンガン飲んでいるこの担任の金髪が、太陽の光を反射し少し眩しい。
(この人、本当に先生か?)
そんなことを思っていると、なにやら大きいビンを取り出した。
「これ飲め」
そう言って強引に飲ませてきた。

ごく ごく ごく

「ぐ、ごふっ」

担任は以外に力が強く、離せられない。

「げほっ げほっ」

しばらくし、やっと解放される。と同時に体の中が熱くなってきた。
「ちょ、先生。一体何を飲ませたんですか!?」
「ん。見てわからんか?これやこれ」
そう言ってビンを見せてきた。

【純米酒 鬼殺し】

「さ、酒!??」

「そうや、ノリの悪い奴がおったら飲ませたろう思てな、持ってきてん」

なんちゅう担任だ。

「何やまだノリ悪そうやな。もっと飲ませたろ」
「や、やめてくれー」

十分後

俺は酒の飲み過ぎで頭が回らなくなっていた。
担任はノリの悪い奴を見つけては、片っ端から酒を飲ませていっている。

・・・ツブツブツ

「・・・ん?」

どこからか何か声が聞こえた。
ゆっくり辺りを見回すと、少し離れたところでクラスメートの女が何か言っている。
(そう言えばこいつもさっき酒を飲まされてたな。小川っていったっけ)

必死で抵抗していたが、あっけなく担任に飲まされていた。
俺はしばらく小川をボーっと見ていると、

ガバッ!

いきなり立ち上がった。そして、

「いくぞー!!」

急に大声を出した。

「イーチ、ニー、サーン、ダーー!!」

何をするのかと思えば、猪木だった。
おもむろに顎もだしている。

周りに座っている奴らは大盛り上がりだ。
俺はあっけにとられていると、

「そこのお前!何故一緒にかけ声をしない」

俺の方を指さしてきた。

「お、俺か!?」

「そうだ。お前には気合いが足りないようだ。立て!!」

言われたとおりに立ち上がると、

「バカヤロー!!」

バチン!!

猪木バリの張り手が俺の頬をとらえた。

「いいぞー猪木!!」

『猪木!猪木!猪木!』

周りから猪木コール。小川も両手を上げて答えている。
その瞬間、俺はキレた。

「おらー!!」
右腕を振り上げ小川に迫った。

「わっ!」
咄嗟にしゃがんでかわした小川。
勢いづいていた俺の攻撃は、そのまま後ろで立っていたクラスメートの男子に

「ぐわふっ」

ラリアットとして決まった。
倒れたクラスメートを見下ろして俺は、

「ウィーー!!」

雄叫びを上げた。

「・・・スタン・ハンセンだ」
「・・・ウェスタンラリアットだ」

周りで見ていた他の人達から声が聞こえた。

すると、
「俺も混ぜろー!」
「俺もだー!」

クラスのみんなが一斉にやってきた。

みんなが暴れる中、俺は酔った勢いで自分を止められなくなっていた。

「オラオラオラ、かかってこいよ!」
片っ端からドラゴンスクリュー→シャイニングウィザードを決めていく。

その内俺は意識を無くした。

(・・・ん?何か頭が重いな・・・)
うっすらと目を開けると、桜が目に入った。
ゆっくり身体を起こし、周りを見てみる。
クラスのみんなが色んな所で寝ていた。
男子に至っては、身体に所々傷がある。

「一体何があったんだ?」

全く覚えていない。そこで自分が覚えているのがどこまでか思い出すことにした。
(えっと確か酒飲まされて、そのあとは、・・・そうだ、小川にビンタされたんだ)
順調に思い出していたが、記憶はそこまでしか残っていない。

(まあいいや、とりあえず便所行こう。ん?)

立ち上がろうとしたとき、脚に何か乗っていることに気づいた。

「すー すー」

誰かが眠っている。自分とは反対の向いている顔をのぞき込んでみると、それは、

(げっ、小川じゃねーか!)

意識を無くすきっかけとなった張本人(?)が気持ちよさそうに眠っている。
なんとなく起こすのは気が引ける。
かといってこのままだとトイレに行けない。

「どうしよう」

迷っていると、
「う、ん・・・」

こっちに寝返りを打った。
その寝顔を見て俺は、
(ら、落書きしてぇ)
イタズラ心がくすぐられる。
何かないかと周りを見てみると、誰かの手帳が落ちていた。
ペンも付いている。
(ちょいと拝借)

手帳からペンを取り外す。
こうなると、もうイタズラしないと気が済まない。
ペンのフタを外し、小川の顔に落書きをする。

(やっぱデコに肉は基本だよな。いや、にくの方がいいかな)

(ほっぺには春一番と書いてやろう)

(逆のほっぺには・・・、小川だから直也でいいか。直也LOVE、と)

ここまで書くと、
「・・・ん?」
(あ、ヤベッ)

小川が目を覚ました。急いでペンをポケットに隠す。
「う〜ん」

目を擦りながら、俺と目が合う。
「よ、よう。目が覚めたか?」
とりあえず、冷静に声をかける。

「あ、あの、私・・・、どうして?」

どうやら何も覚えていないらしい。

「まあとりあえず、どいてくれる?」

そう言ってやると、小川は自分がどういう体勢でいるかわかったらしい。
急いで起きあがる。
「ご、ごめんなさい」

俺の膝枕で眠っていたのを理解し、恥ずかしいのと照れているのが入り交じった顔になる小川。
さっきまで暴れていた姿とギャップがあり、その姿はかわいく見える、はずである。しかし、
(ククク、腹痛ぇ)
落書き顔のせいでかわいらしい姿は半減している。
俺は必死で笑いを堪えた。

「あの、みんなどうしたの?」
小川は周りを見て不思議に思ったのだろう、俺に訊いてきた。

「あーあれだ、はしゃぎすぎて疲れたんだ」
「ふーん」
さすがに酒を飲んで暴れたなんて言えない。

「ま、その内起きるだろ」
俺は立ち上がった。
「どこ行くの?」
「トイレ」

俺は小川を残し、トイレに向かった。

「ふー、すっきりした」

用を足した俺は手を洗う。
「それにしても、さっきの小川かわいかったよな。酒を飲んで暴れたとは思えないな。
 まあそのかわいさも、俺のせいで半減だったけど」

そう言う意味では落書きしたことを少し後悔していた。
「ま、いいや。今年は何かと楽しく過ごせそうだ」

手を洗い終え、あることを思い出した。

「あ、そういえばこのペン返さなきゃ」

ポケットからペンを取りだし、何となく見ていた。
すると、

「きゃー!なにこの顔ー!」

隣から声が聞こえた。
俺は急いで外に出てみる。するとそこには、

「ねえ、何よこの顔のイタズラ書きは!?」

小川が怒りながら俺の方にやってきた。
その怒り具合からして危険を感じた俺は、
「し、知らねーよ。誰かが書いたんじゃねーのか?」

しらばっくれるのを決意した。しかし、
「ん?」

小川が俺の手を見ている。俺も見てみるとそこには、

(しまった!)

ペンを隠すのを忘れていた。もう言い逃れは出来ない。
ゆっくり顔を上げる。すると、

(げっ!)

小川は俯いていた。が、
気のせいか、小川の背中からオーラが見える。
ハッキリ言って怖い。

「ふっふっふ、この恨みは忘れないから・・・」

そう言うと、顔を洗いにトイレに入っていった。

父さん、僕は、この一年間、楽しく過ごせそうです・・・。