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剣士 投稿日:2002/04/08(月) 14:33
「心の傷」
ある、春の暖かい朝だった。
俺はとある高校に転校してきた。
「ここか・・・・」
その高校は、まだ新しく、きれいな校舎だった。
「ここなら・・・どうなのだろう?」
俺はとある理由で転校したのだが、ここではまだ伏せておこう。
そして、職員室に行き、校長に挨拶をすませた後、俺は学校の中を歩いた。
と、そこに・・・
「おーい!転校生!」
後ろから声をかけてきたのは、中澤裕子という先生。金髪に、結構鋭い目。
さすがに腰が引けた。
「そんなにこわがらんでもええ。今度から、あんたの担任やねん。よろしくな。」
顔とは裏腹に、いい性格。
「・・・・どうも。」
先生は、俺のその返事を聞いて、半ばあきれ気味に
「あんなぁ・・・そんな愛想のない顔やったら、友達できへんぞ?もっと明るくいけや」
もっともな意見。だが、俺は素直に「はい」とは言えなかった。
そして、その後、先生は学校内を案内してくれた。
「まあ、こんなとこや。じゃあ、明日から、遅刻せんとくるんやで!」
俺はコクッとうなずいて、学校をあとにした。
そして、新学期、始業式の日になり、俺は余裕をもって学校に行き、教室に入った。
そして、先生が来た。
「みんな、おはよう!まあ、ようしっとると思うけど、ウチは中澤裕子や、一年よろしくな。
あ・・そや、おい、転校生。前でて挨拶しい!」
さすがに転校生と呼ばれるのは嫌だったが、名前を教えるのを忘れていたので無理はなかった。「今日から転校してきた、神風剣(かみかぜつるぎ)と言います。よろしく・・・」
挨拶なんて慣れていないものだから、少し顔がひきつった。と、その時・・・
「あれ?剣君・・?」
ある女性が俺に言葉をかけた。
「・・・・なつみ・・・か?」
俺に声をかけてきたのは、安倍なつみといって、俺の幼なじみだった。
もっとも、俺が色々転校していってからは会えなかったが、奇妙な所で再会するもんだ、と思った。
「なんや、安倍の知り合いか。なら丁度ええ。安倍の隣へ座れ。」
先生の言われるがままに、なつみの隣の席に座った。
と、そこに、なつみが突然話かけてきた。
「ねぇ、今日さ、時間ある?久々に会ったんだから、一緒にどっかいかない?」
なつみの突然の提案に驚いた。断ろうと思ったが、なんせ久しぶりに会ったから、なつみの誘いを断れず了解した。
そして放課後、俺たちは一緒に学校でて、どこに行くか相談していた。と、その時
「お〜い!なっち〜」
遠くから背が高めの助英が走ってきた。
「ねぇねぇ、どこ行くの?って・・・その人は?・・・彼氏?」
その言葉になつみは顔が真っ赤になりながら
「ちっ・・・違うよ〜・・・ただの元幼なじみ。転校してきた人よ・・・。」
俺はなんでそんなに必死に否定するかねぇ・・・と思いつつ、挨拶した。
「どうも・・・神風剣です・・・よろしく・・・」
すると、その人も挨拶してくれた。
「私は、飯田圭織。かおりんって呼んで。・・・でも、君って・・・」
「?何だ?」
俺は何を言うかわからなかったので、まじまじと聞いた。
「愛想ないね」
俺はその言葉にカチンときたが、いきなり怒るのもなんだと思い
「そうかもしれませんね・・・」
と、そっけなく答えた。
「昔はずっと笑顔だったのにねぇ・・・」
なつみのトドメの一言。
「・・・どこいくんだ?それより・・・」
俺のことの会話になると、過去を探られそうでいやなので、話題を変えた。
「あ、そうだねぇ・・・うーん・・・・何か食べに行こう!」
なつみの提案に賛成し、ファーストフードの店に入った。
「そういえばさ・・・」
なつみが急に真剣な顔で聞いてきた。
「なんだよ・・・?」
「何で転校してきたの?」
俺はそのことを聞かれると、黙ってしまった。「・・・色々あったんだ、今度教えるよ」
俺はめんどくさかったからでもあるが、真実を答えなかった。
「何かワケあり?」
と、圭織。女の勘とは本当、するどいものだ。
「・・・さあな。さて、そろそろ帰らなきゃ・・・まだ引っ越しの片づけもあるんだ」
そういって俺達は勘定をすませて、店を出た。
「ああ、それと、これは俺の携帯番号とメルアド。用があったら使ってくれ」
そういって俺は紙を渡し、さっさと家に戻った。
「・・・ただいま〜、って誰もいないんだったな。」
俺は空しささえ感じた、が、そこに
「おかえり〜」
と、奥から声が聞こえた。誰もいないはず!と考えたが、この声は・・・とすぐに正体がわかった。
「その声・・・・真希か?」
「私以外に誰がいるわけ?恋人でもいるの?」
と、ちょっとむくれながらでてきたのは、いとこの後藤真希。
俺の面倒をよくみてくれるのはいいが、失敗したりして、結局俺が全部責任を負うはめになったことがしばしば。
「んなもんいるか。さあ、片づけるぞ」
俺はさらっと言って、ダンボールや、荷物を片づけた。真希がいてくれたので、以外と早く終わった。
「ふ〜・・・終わったな。さて、飯にするか。真希を食うんだろ?」
真希はそれを聞くと、表情を輝かせて
「うん!食べる!剣の手料理、おいしいからねぇ〜」
俺は半ばあきれ顔で、キッチンに向かった。
そして、料理を作りながら、真希に質問した。
「お前、今日はいつ帰るんだ?」
真希はニヤニヤしながら
「ここに泊まる!」
と、キッパリ。俺はその時、味見をしていたので、驚いて吹き出した。
「な、な、な・・・。」
俺は慌てた。いとことはいえ、女性と一つ屋根の下に二人。しかも美人(いとこにこう思うのもどうかと思うが)
「何でそんなに慌てんの?昔はよく一緒に寝たり、お風呂入ったじゃん」
何でそんなことを言うのか・・と思いつつ、料理を作りあげた。
「いただきま〜〜っす!・・・おいしい!やっぱ剣は料理うまいね〜」
ほめられて嬉しいのだが、真希は食べるのが早い!
「ムグムグ・・・そーいやさぁ・・・聞きたかったんだけどぉ・・・」
真希は口に飯をほおばりながら真顔(?)で聞いてきた。
「・・・何だ?」
「どうして野球やめたの?」「・・・理由は知ってるだろ。」
俺は少し怒りが顔にでた。
「でも、でもさあ、あれは事故・・」
「事故だったとしても、あれは俺が悪い!・・・もう、投げれない」
俺の中で悪夢がよみがえった。
「ごめん・・・」
真希はそうとう落ち込んだ。
「・・・はぁ、いいよ。真希、先に風呂入れ。俺は食器洗うから」
真希はその言葉を聞いて、ニヤっと笑い
「一緒に入ろうよ。私も洗って♪」
俺は飲んでいたお茶を吹き出した。
「ゲホッゲホッ・・・バカ!何いってんだ!」
俺は慌てながら言った。
「いいじゃん、昔はよく一緒に入ったじゃん。」
冗談なのか、マジなのか・・・。
「アホか!さっさと入ってこい!」
真希をさっさと風呂に行かせた。
「何考えてんだか・・・ったく」
俺はブツブツいいながら食器を洗った。
その頃、風呂で真希は・・・
「ふう・・・いいじゃん、お風呂一緒にはいるぐらい。いとこなんだし。」
そして、突然真剣な顔で
「・・・黄金の左腕、神風剣。中学時代、公式30戦投げて、29勝・・・1敗。最速140キロの投手・・・ある試合の事故により、野球をやめる・・・か」
俺の経歴である。そして、言い終わったあと、真希は大きくため息をついた。
そして、風呂から真希が出てきたとき、俺は自分の部屋で寝てしまっていた。
そして真希も、何故か俺の横で寝た。
無論、ベットは一つ。ぴったりくっついていた。朝、俺が目覚めると、とんでもない光景が横にあった。
「ふわぁぁぁ・・・ん?って・・・おわぁ!」
なんと真希がシャツと下着だけの格好で寝ていたのだ。
(ったく・・・こいつには恥じらいがないのか)
日曜日だったが、真希の寝ている姿を見て目が覚めた。
(気持ちよさそうに寝てるし、メモを置いてでるか・・)
歯を磨き、着替えて家を出た。
とりあえず商店街に出て、服でも買うか・・・と思っていた。と、その時・・・
「お、剣じゃん。おっす!」
声をかけてきたのは、飯田だった。
「よう、奇遇だな」
「ああ、買い物?」
飯田は笑顔だった。何か気味が悪かったが。
「そうだ。まあ、服でも・・と思ってね」
「ふ〜ん・・・まあ、そこのサテンで座らない?」
飯田は何か聞きたげな顔だ。
「ああ・・・かまわんが。」
とりあえず一緒に喫茶店に入った。「俺、コーヒー」
「私はパフェ!」
なんか妙に上機嫌な飯田。
「で・・・話って何だ?」
俺は少々不機嫌な顔で言い放った。
「これ!わかるよね?」
飯田は突然雑誌を取りだし、あるページを開いた。そこには・・・
「これは・・・!」
そのページにはこうあった。
ー黄金の投手、相手バッターに死球!バッター意識不明、投手ショックからメッタ打ちー
まさに、俺の記事だった・・・中学時代、全国大会決勝・・・。
「これってさ・・・剣君・・・なの?」
飯田は神妙な顔になっていた。
「そうだ。俺の、渾身の一球が、相手に大怪我を負わせた。しかも、頭・・・」
俺は昔を振り返るたびに、心が痛かった。
「・・ふ〜ん・・・。じゃあ、もうやらないの?野球」
飯田は俺の目を見つめた。俺の心をのぞき込むような目・・・。
「・・できると思うか?あの出来事以来、投げることはできるが、スピードがでない。役にもたたんだろう、それじゃあ」
俺は少しギラっとした目で見た。
「・・そっか。まあ、いいけど・・・なっちがね、心配してたよ。」
「安倍が?」
俺はキョトンとした。
「うん。まあ、なっちを心配させちゃあダメだよ」
そういうと喫茶店を出ていった。
「・・・俺が払うのかよ・・・」
飯田の言葉の謎に、おごりという攻撃、そして、家に帰れば、後藤が少し怒っているということが起きた。
まさに・・・厄日だった・・・。
「・・・勘弁してくれよ」翌朝・・・俺が起きると、また真希が、しかもバスタオル一枚で横で寝ていた。
「恥じらいってもんがねぇのか・・・こいつ。・・・そーいえば・・こいつ学校どうしたんだ?!」
真希の頭をコツンと軽く叩いて、俺は着替え、学校に行った。
学校に行くと、なつみが俺を教室前で待っていた。
「おっす〜!相変わらず、無愛想ねぇ」
笑顔でケチつけてくるなつみ。
「余計なお世話だ・・・ったく」
そういいながら、俺は椅子に座った。
「ねぇ、弁当持ってきた?」
俺はその時、はっと気づいた。
「しまった・・・忘れた。(真希のこと気にかけたてたから、忘れてた・・・)」
なつみはやっぱり・・・という顔をして
「私のわけてあげるから、昼休みどっかいっちゃダメだよ。わかった?」
なつみは何故か笑顔。
「わかったよ・・・・。」
そして、授業に入り、俺は不覚にも眠ってしまい・・・中澤先生に頭を叩かれたりしながら、昼休みの時間に
早くもなった。
「剣、一緒に行くよ、ほら、ボケボケっとしてないで!」
なつみは本当に元気だ・・・と思いつつ、屋上に行った。
「さて、食べよっか。なっちが愛情こめて作ったお弁当!」
なつみが弁当をあけると、そこにはカラフルで、うまそうな中身が・・・。
「お・・うまそうだ。じゃあ早速・・・」
俺たちは、弁当をほおばりながら喋った。
「しっかし・・うまいな、弁当」
なつみはその言葉を聞くと、笑顔で
「よかった〜!嬉しい!・・・あ、そーいえば、さ・・・」
なつみは笑顔から一転、寂しそうな顔になった。
「野球、もうやらないの・・?」
「え・・?」
俺は驚いた。この感じじゃあ、俺が野球やめた理由も知ってるようだ。
「ねぇ・・・どーなの?」
「俺は・・・」「手が震えるんだ、投げる時に」
「・・・気持ちの問題・・・ね?」
なつみは俺の顔をのぞきこみながら言った。
「・・・ああ。怖いんだ、正直。まだ・・・投げれるの体力はあるんだ!」
俺は歯ぎしりをした。悔しさで一杯であったのだ。
「じゃあさ、簡単なキャッチボールから初めてみれば?」
なつみは笑顔で提案した。
「キャッチボール・・・誰と?まだそんなに仲いいやつなんて・・」
「私がいるじゃない」
俺は、まさに鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。
「遅いボールからなれればいいと思うし・・・私しかいないっしょ!」
確かにそうだ、と言いたかったが、なつみとキャッチボールして、怪我でもさせてしまったら・・・と思った。
「何心配そうな顔してんの?あ、私が運動音痴だと思ったでしょ?」
図星だった。が、そんなこと言えるはずもない。
「違うって・・・そうだな、お願いしようかな」
「やった!じゃあ、明日から始めよう!」
なつみは満面の笑み。こちらはひきつった笑顔・・・。
「・・・本当にいいのか?」
俺は心配そうな顔で言った。
「いいよ・・・だって・・」
そいいながら、俺をそっと抱きしめるなつみ。
「な・・なつみ・・・」
「もっと頼ってよ・・・だって私は・・」
そう言ってなつみはそっと離れて、走っていった。
「・・・なつみ」
俺がボ〜っとしてると、中澤先生がやってきた。「お前、安倍と仲ええな〜」
意味ありげにニヤッと笑う中澤先生。
「まあ・・・そら昔から知り合いやから・・・」
「・・・何でお前関西弁やねん」
お互いにクスクスと笑った。
「まあ、あいつが俺にまた野球して欲しいって気持ちがわかるから・・・」
俺は感傷的に語った。
「ところで、先生はここで何を?」
「ん?い、いや〜・・・ちょっとな。それよりも、ウチのことは裕ちゃんでエエで!だってな・・・」
中澤・・・いや、裕ちゃんは照れるように笑いながら
「あんたみたいなのが好みなんや。」
俺は慌てた。
「な、な、な・・・年違いすぎるでしょうが!」
裕ちゃんは見透かしたように
「愛に年の差なんてないで!なあなあ・・・ええやろ〜」
(三十路をもうすぐ迎えて、しかも未婚の結構願望女・・・恐ぇぇ!)
心で思っても口に出さなかった。マジで殺されると思ったからである。
「じゃあ、俺は用があるんで!」
そう言って俺は逃げた。
(ヤベーヤベぇ・・・さて、真希も、おそらくまだいるだろうし、早く帰ろう)
だが、このあとにあんなことが起きるとは、知るよしもなかった。家に帰ると、衝撃的なものが俺の目に飛び込んできた。
真っ赤に血で染められた床、刃物。そして・・・
「まっ・・・真希ぃーーーー!」
真希が血まみれで倒れていた。
すぐに救急車を呼び、病院へ。
その間、俺は何も考えられなかった。
そして、病院に着き、集中治療室に入っていった。
(ここは・・・俺だけじゃあ、何も考えられない・・・そうだ。)
そして俺は携帯で、安倍を呼んだ。
「はぁ・・・はぁ・・・剣!」
30分もしないうちに安倍が来た。
「どういうこと?真希ちゃんが血まみれで・・・って」
俺は震えながら答えた。
「わかんねぇ・・・どうして真希が・・・」
「剣、しっかりしてよ!」
安倍も涙がこぼれていた。
無理もない。真希と安倍は仲がよかったから。
「俺は・・・あいつを、守ってやらなきゃいけなかった・・・約束だったのに!」
昔、小学生のころの約束を、いまだに俺は覚えていた。
と、その時・・・
(ガラガラガラ・・・)
治療が終わり、真希が運ばれてきた。
「先生!真希は・・・どうなんですか?」
医者は深刻そうな顔で
「やれることはすべてしました。あとは彼女の生命力しだいです・・」
俺は愕然とした。
何故だ!何故・・・真希がこんなことに・・・何も悪いことなんてしていないのに・・・。
「クッソォォォォ!!!」
俺は怒り・・・憎悪の炎で心が満たされた。
「剣・・・うわぁぁぁ」
安倍は俺の肩で泣き崩れた。
そして、一週間後に犯人は捕まった・・・だが、真希は意識不明のまま・・・。真希が襲われて、一ヶ月・・・。
いまだに真希の意識は・・・・ない。
俺は真希の病室を訪れた。医者と看護婦もそこにいた。
「あ、どうも・・・真希はどうですか?」
医者は黙って首を横に振った。
「そうですか・・・」
「なんとも・・・あとはこの子の回復力によりますので・・・」
俺は顔を上げられなかった。ただ思っていたこと・・・それは
真希・・・何故お前がこんな辛い目に遭う?どうして・・・俺が守ってあげなきゃいけなかったのに・・・
こんなことばっかり思っていた。と、その時!
「つ・・・る・・ぎ」
なんと真希がかすかに喋った。
「真希!俺はここにいるぞ!」
俺は必死に呼びかけた。
「や・・・きゅ・・・・ぅ・・・やって・・・ね・・・」
俺に野球をもう一度、と言ってるようだ。
「真希・・・わかった!かならず・・・カムバックして・・・最強投手になってやるぜ!」
そう言って、俺は病室を出た。
「信じられない・・・奇跡だ。あの少年には回復力しだいとは言ったが・・・もう無理だと思っていた。奇跡とは・・起きるものだな」
そう言って、医者はにっこり笑った。
その頃俺は、復帰に向けてトレーニングをしていた。と、そこへ誰かが走ってきた。
「剣〜!つ・る・ぎぃ〜!」
安倍だった。
「ね、キャッチボールしよ!復帰に向けて、でしょ?」
安倍は笑顔で言った。
「ああ!かならず、復帰して、優勝するぜ!」
夕日に染められながら、俺はキャッチボールをして、誓った。
(かならず、甲子園で勝つ!)練習を始めて、はや半年・・・。
うちの高校は、夏の甲子園で、地区決勝で敗北。
その頃俺は、ひたすらトレーニングをつんでいた。
(そろそろ、か・・・)
俺は決意をかため、野球部に殴り込んだ。
「ん?誰だあんた?」
「俺は・・・・・・だ」
その瞬間、野球部員が固まった。
「あ、あの中学時代にすでに140キロの直球を持っていたあの!?」
俺はそんなことはどうでもいいと言う顔をしながら、言い放った。
「俺を野球部に入れてくれ、というかエースになりに来た。」
なんとも、野球部員に喧嘩を売った発言。
「ふざけんな!そんな無茶苦茶なことが通じるか!」
当たり前であろう。と、その時
「ほんなら勝負したらエエやん」
中澤先生・・・・いや、裕ちゃんだった。(これで呼ばないと追いかけられるようになった)
「・・・それもいいかな」
と言って、奥からある人が・・・
「この野球部のキャプテンです。勝負、受けますよ。」
好青年、という言葉が似合いそうな人だった。笑顔で勝負を受けてくれたが、この顔、どっかで見たような・・・。
「ほんなら交渉成立ってことで。ほれ!いけや、剣!。ウチをガッカリさせんなよ!」
よく言うよ・・・と思いながら俺はマウンドへ向かった。
「ずっと投げてなかったから体なもってんじゃねーか?ボコボコに打ってやろうぜ!」
と言うふざけた(失礼)連中に一泡ふかせてやるか・・・と思っていた。
「どんな球ほうるんやろ?楽しみやわ〜」
裕ちゃん談。
そして、勝負が始まった。一巡するうちに、一得点でも取られたら負けである。
守備がつき、審判のプレイボールの声がかかった。
「うち崩せ!」
と言う子四羽が響いたが、真希のため、安倍のため・・・負けられない所だった俺は・・・
最高の力を発揮した。まさに圧巻、とも言うべきか。
(ズトォォン!)「ストライーック!バッターアウッ!」
出てくるバッターを次々三振にとっていく。
全盛期以上の力、と言えるような球。
「・・・さすがに凄いな」
「キャプテン!感心してる場合じゃないですよ!もう6者連続三振ですよ!」
キャプテンと呼ばれる人以外、皆焦っている。
と、部員が喋ってるうちに
(ガキンッ!)「アウト!」
俺は8番目の打者をピッチャーフライに打ち取っていた。
「さて・・・俺の番だな」
「頼むぜ!安倍!」
安倍?・・・そうか!見たことあると、思ったら、安倍の兄だ!
「・・・なつみは君を復帰させたいようだが・・・実力の世界だ!容赦しない!」
目がマジな安倍兄。俺も負けじと睨む。
「虎と狼のにらみ合いやな・・・」
のんきなことを言うのは裕ちゃん。
「いくぞ!!ふん!!!」
俺の、渾身の一球目!
(ガキィン!)「ファールボール!」
さすがにキャプテンやってるだけあって、そう簡単には倒れない。
「なるほど・・・確かに早いが・・・ストレートだけじゃあ打ち取れないよ。」
確かに、ストレートだけだといつかこのバッターには打たれる。
「それならば・・!ふっ!」
第二球目を放つ俺。
「もらった!」
安倍兄は、ストレートを絞っていた。だが・・・
(グググッ!ズドォン!)「ストラーイク!」
安倍兄の驚いた表情。
「今のは・・・スライダー・・変化球もあるというのか?」
どうやら、俺の力を見くびっていた様子である。
「安倍さんよぉ!最後は、ストレートでいくぜ!」
この言葉でその場は凍りついた。もちろん安倍兄は怒っている。
「ふざけるな!自分で野球部へ入る可能性をすてるのか!?」
「そういうワケじゃない。ストレートで打ち取る自信があるんだよ」
この言葉でさらに怒りが増した様子の安倍兄。
「そこまで言うなら、こい!しかしストレート以外を投げたら許さんぞ!」
疑ってるねぇ・・・と思いつつ、三球目、すべてを賭けて投げた!(ズドォォォォォォン!)
「なっ・・・・何だと・・・。馬鹿な・・・」
安倍兄は、バットを振ったままの状態で、動きが止まった。
「そんな・・・アイツにこんな速い球は投げられないハズ・・・。ブランクも長いし、十分なトレーニングができなかったハズだ!」
安倍兄の言うことはもっともだ。確かに、ブランクは一年半ある。だが、それを埋めるぐらいのトレーニングを俺は積んでいた。
「剣!やったやないか!ほい、これ!」
と、裕ちゃんが差し出した物、それは入部届けである。俺はサラサラと自分の名前を書き、そして
「ほい!これ。文句ねぇだろ?」
と、届けを安倍兄に渡した。
「あ、ああ・・・文句どころか・・・歓迎するよ。」
安倍兄はまだバッターボックスで立ちつくしている。だが、俺はかまうことなく、その場を(なぜか裕ちゃんと)去った。
その頃、スピードガンを計る機械に、最後の球の球速がでていた。それにはじき出されていたスピードは
−−−−−154キロ−−−−−
途方もない(?)数値であった。
sのころ、俺と裕ちゃんは、真希の様子を見にいこうか、という話から病院へ。
と、病室に着いてみると・・・
「ま、真希?」
そこには、なんと意識を取り戻し、パジャマ姿で窓から夕日を眺めている真希がいた。
「後藤!あんた意識戻ったんかいな!」
裕ちゃんも笑顔。だが、当の真希の表情は暗い。
「どうした?真希。」
「・・・・」
何故か言葉をまったく発しない。
「・・・真希?」
「後藤?」
様子がおかしい。そのことに気づくのに、そう時間はかからなかった・・・。「おい、真希・・・何か言ったらどうなんだ?」
だが、真希は言葉を発しない。
「まさか・・・声がでえへんのか!?」
その事実に気づいたのは裕ちゃん。
そう・・・・真希は声がでなくなったのだ。
真希は泣きそうな顔をしながら飛びついてきた。
「真希・・・そんな・・・・」
裕ちゃんも悲痛そうな顔である。
俺は、なんとかこの空気をかえなきゃ、と話題を探した。
「そ、そうだ!俺、野球部に入ったよ。」
その言葉で、真希の表情は一転、笑顔に変わった。(涙はあいかわらず流れているが)
真希が意識不明の間にあったことをすべて話した。
野球への決意を、真希のために固めたこと
一生懸命トレーニングを積んだこと
野球部部員たちとの勝負のこと・・・。
真希は真剣な顔で聞いていた。
そして、喋り終わって、帰ろうとしたとき、ちょっと気づいたことを真希に告げた。
「お前・・・乳首透けて見えてるぞ」
俺はニヤニヤした。と、真希は照れながら胸を隠しただけだったが・・・・
「アホ!」(バシビシッ!)
裕ちゃんが何故か俺をどつきまわした。
まあ、俺がそんな余計なことを言うのが悪いのだが・・・。
見せてた真希も悪いぞ〜。(バシ!)はぅっ!野球部入部してからというもの、なつみのため、真希のため、そして・・・・自分のため。
野球の練習を黙々と俺は続けていた。
安倍兄とも仲良くなり、友達として、仲間として切磋琢磨した。
「お前のピッチング、俺のバッティングがあれば、甲子園も、いや日本一も夢じゃないな!」
お気楽なヤツ・・・・だが、目は以前の時より輝いていた。
まるで、夢みる少年(まだ高校生だが)みたいな感じ。
なつみも練習している所によく来て、すでに野球部のアイドル化。
なつみに男が近づくたびび、安倍兄がギラリとそいつを睨む。
俺はコソーリ見て、笑う。こんな毎日が続いていた。
だが・・・・俺にある異変が起こり始める。
いつものように、フリー打撃の投球をしている時・・・
「うっ・・・・」
肩に突然痛みが走った。安倍兄は、俺の表情が曇ったのを見て、近寄ってきた。
「どうした?」
肩が痛い、なんて言えない。練習しなければ、不安だ・・・という気持ちでいっぱいな俺は
「何でもない。目にゴミが入ってビックリしただけだ」
適当にごまかす。安倍兄は、少し不審に思いながらも
「まあ、いいか。無理すんなよ」
と、言って去っていった。
(ちょっと痛かっただけだ。あんま気にしないでおこう。)
気楽に考える俺。安倍兄の性格がうつったかな?
そして、とうとう甲子園への切符をかけての予選が始まった。
俺は、華々しいデビューを飾るためという野心(?)もあった。
もちろん、なつみや真希のためが一番だが。
そして、俺のデビュー戦が始まった。
(プレイーボーーーーール!)安倍は飯田を誘い、球場へ・・・。
「お〜い!かおりん早く〜!もう試合始まってるよ!」
時計を見ると11:00。試合は9:00からである。
完全な遅刻であった。
「ったくも〜・・・なっちが寝坊するからでしょ!」
どうやら、なつみが寝坊したらしい。で、飯田が待たされたらしい。
「だから〜・・・ごめんって言ってるじゃん!ほら、早く入ろう!」
そして二人は球場中へ。
試合は9回裏、相手の高校の攻撃中だった。
(ドワァァァァ!)
もの凄い盛り上がりであった。その理由は・・・
−二死満塁、2点差−
うちの高校が勝ってていた、が大ピンチである。と。ここでアナウンス。
(9番ピッチャー・・・に変わりまして、神風)
(ウォォォォォ)
その瞬間、凄い声援が。
(剣だぁ!)
その頃安倍は、興奮しながら見ていた。
「剣だ!ガンバレ〜!!!」
剣が投げる、剣が投げるとこが、また見れる!その嬉しさでいっぱいだった。
俺は、ブランクが嘘のようなピッチングを披露。
(ズバァァァン!)(ストラックバッターアウト!)
3者三振。完璧な抑えだった。安倍の興奮は最高潮に達した。
「キャァァ!剣〜〜〜〜〜!」(暴走)
飯田は、安倍がこれから何やらかすかわからないと思ったのか
「ほ、ほら!なっち、行くよ!」
安倍を球場から引っ張りだした。当然安倍は暴れた。
「いや〜!剣に声かける〜!」
無茶苦茶なことを言うが、飯田に結局、引っ張り出された。
何はともあれ・・・・所詮は完璧な内容でスタートをきった。剣はその後の2、3回戦、準決勝と完璧(私にはよくわかんないけど)な内容で勝っていった。
私は甲子園行けるかもね〜と思っていた。だって剣は最高のピッチャー。安心して見ていた。
けど・・・・当の剣はそうでもなかった。むしろ・・・体がボロボロになっていった。
その事に気づいたのは・・・ある日曜日。お兄ちゃんと買い物に行った時だった。
「しっかしお前よく買うよ・・・荷物重い・・・・」
「いいじゃん。野球ばっかでちっとも買い物いけなかったし・・・たまには、妹と一緒で嬉しいんじゃないの?」
私は正直、兄と一緒で嬉しかった。もう3ヶ月は一緒にいなかったから。
会話もできなかったし、寂しかった。
でも・・・帰り道・・・。
「ん?あれ、剣じゃない。お〜〜〜〜い!」
叫んで呼んだ。でも・・・反応しない。何か、顔色が悪い、というか、怒りに満ちた表情。
何で?真希ちゃんも退院、剣自身も最高の結果だしてるのに・・・。まるで、この世の終わりみたいな顔してる。
結局、その後剣は、とぼとぼ歩いて去っていった。
兄はけわしい顔。
「ねぇ・・・剣、どうかしたのかなぁ?」
私は兄に聞いた。
「あいつ・・・・肩か肘、もしくは両方壊れてきてるんじゃあ・・・」
「えっ・・・嘘・・・」
私は固まってしまった。剣が・・・そんな・・・。
「何か、練習の時も、試合の時も、腕を気にしていた。まさかと思ったが・・・」
私は愕然とした。何で剣ばっかり・・・中学の時も・・・そして今も!
私と兄は暗い表情で、家に帰った。翌日、学校に向かってる途中、バッタリ剣に会った。
「よう!」
剣は、何もなかったかのように明るい。たぶん、私に何も気づかせないため・・・。
「お、おはよう・・・」
どうしても、昨日のことがあるから暗くなっちゃう。
「何だ何だ!暗いな・・・何かあったのか?」
何かあったのかなんて・・・・言えるわけない。
「あ、そうか・・・太ったのか?」
・・・人が心配してるのに、失礼なヤツ・・・・。
「そんなわけないでしょ!剣、昨日ね・・・」
昨日。剣はこの言葉に感づいたようだ。
「・・・俺を見たのか?」
剣の顔は、とんでもなく険しい顔。
今までにみたこともないような・・・。「・・・うん。昨日、お兄ちゃんと買い物行った帰りに・・・」
それを聞いた剣の表情は、みるみるうちに暗くなった。
「・・・・そのことは、他の誰にも言うなよ」
そう言って、剣は走り去った。
言うな・・・って言われても、肩や肘が壊れちゃうかもしれないのに、何で?
肩や肘壊しちゃったら、野球できないのに・・・。
今から直せば、いつか投げれるじゃない・・・・。その後、お兄ちゃんも説得したらしいけど・・・剣は聞き入れなかったらしい。
そして、予選決勝、甲子園えの切符をかけた戦いの日となった・・・。決勝の日・・・私は、複雑な思いでかおりんと球場に来ていた。
勝って欲しい!でも・・・・剣の体が心配。
「どしたの?なっち」
かおりんは私が暗い顔をしているので、心配してくれた。
「なんでもないよ。勝つよね!剣」
かおりんはニッコリ笑い
「あったりまえじゃん!」
と言った。
そうだ、剣は投げるって言った。勝つって言った。
大丈夫だ−そう思いながら椅子に座った。
そして、試合が始まった。
(プレイボーーーール!)
決勝ということもあってか、球場内は、異様な熱気に包まれていた。
剣達は、まず守りからだった。
肉眼では見えない所に座っていたので、剣を双眼鏡を使って見てみた。
剣の表情・・・−!
おかしい。まだ投げてもいないのに、滝のような汗をかいてる。
やっぱり、肩や肘が痛いんだ・・・。
お願い、無理しないで!勝ち負けなんていいから!剣は必死に投げていた。
いつものような余裕の表情が見られない。よほど無理をしてるのだろう。
でも・・・5回まで投げて無失点は、さすがと言える内容だと思う。
「やっぱ剣は凄いよね!」
かおりんはもうすでに興奮気味。まだ0−0なのに・・・・。
でも、0点に抑えてるのは凄い。相手は、去年甲子園でベスト4まで上がった強豪である。
−その頃ベンチ内では−
「みんな!剣がこんだけ頑張ってるんだ!なんとしても一点とるぞ!」
(オォーーー!)
「大丈夫か?剣」
安倍兄は事情を知ってるだけに、心配している。
「ああ・・・まだいける。でも・・・延長は勘弁してくれ」
剣はもうぐったりしていた。痛み、疲労、暑さ・・・体力をドンドン奪われているからである。
(スリーアウトチェンジ!)
あっさりと3アウト。休むヒマもない。
(まだいける・・・肩や肘がぶっ壊れても投げる!)
そう決意している剣。だが、6回表、剣に悪夢が襲いかかる。6回表、剣はなんとか2アウトをとって、次のバッターも2ストライクまで追い込んだ。
「この回も0点でいけるよね・・・」
剣がいい内容で投げてる。でも・・・何か不安、何なの?この不安は。
その不安がこのあと的中する。
剣が、3球目を投げた。
(カッキーーン)(ドカッ!!!)
なんと相手バッターが打った打球が、剣の肩に直撃。
剣はうずくまってしまった。
「あっ!!!」
私は何も喋れなかった。かおりんも黙ってしまった。
「だっ・・・大丈夫だよ。剣はこんなんで・・」
かおりんが励ましてくれるけど、私は真っ青な顔で見ていた。
あ・・・剣が立ち上がった。投球練習してる・・・。
「ほら!やっぱり大丈夫だよ」
かおりんは安心してるけど・・・私にはわかる。剣は、もう倒れそうなぐらい辛いことを・・・。(ちくしょう・・・意識が遠のいてきた・・。いや、まだいける。勝つんだ!)
剣の心の炎は、消えることなく燃えていた。この後、剣はキッチリ抑えた。
肩、肘の激痛と戦いながら。
でも・・・ベンチでは誰が喋りかけても返事はしなかった。
6回、7回、8回、9回・・・。
合計130球を投げた。相手を0に抑えた、がこちらも得点がない。
そして、9回裏。
(4番、キャッチャー、安倍)
あ・・・お兄ちゃん。お願い!剣がもう投げなくていいようにして!
剣を助けて!
(カッキーーーーン)
お兄ちゃんが打った球は、レフトスタンドに吸い込まれていった。
ホームラン。サヨナラの。
「きゃぁぁぁ!やったぁぁぁぁ!」
かおりんと私は興奮の絶頂!
でも・・・その興奮が冷めるまで、あと数分もかからなかった。
お兄ちゃんがベンチに戻ってきて、祝福されて、そして整列の時、異変が起こった。異変。それは皆が整列しているのに、剣がいない。
チームの皆もベンチも見ている。
「おい、剣!整列だぞ!どうした!?」
お兄ちゃんが叫んでる。どうしたの?試合終わったんだよ?勝ったんだよ?
早く出てきてよ、剣。
その後、信じられない一言が。
「おい!救急車を呼べーーーーー!」
スタンドの歓喜の興奮が、一瞬にしてざわめき、驚きに変わった。
「え?救急・・・って、剣!?」
誰のてめに救急車を呼んだかは、整列の時でわかった。
剣がいない=何かあったに違いない。
しばらくして、救急車が到着。剣は病院へ運ばれた。
後味の悪い試合・・・私は兄に電話で剣のことを聞いた。
「ねぇ、剣は・・剣はどうなの?」「・・まだわからない。病院へ行ってみないと・・・ただ・・・。」
お兄ちゃんは言いづらそうに言葉を止める。
「ただ、何!?」
無意識に口調が荒くなる。
「あいつ・・・意識がなかった。大丈夫だと願いたい・・・。もし、行くなら、○○病院だ。俺も今向かってる。」
お兄ちゃんはそう言って、電話を切った。
○○病院!私は急いで向かい、到着。そして、兄と合流した。
「どうなの?剣は!?」
私はすがりつくように聞いた。
「わかんねぇ。今集中治療室に入ってる。無事だと願いたい」
お兄ちゃんの表情もこわばってる。そうとうまずい状態なんだ・・・でも、剣はきっと大丈夫。
私はそう自分に言い聞かせた。そして、医者が出てきて、剣のことを聞いた・・・だが、私たちの期待を裏切る結果を聞かされた。
手を尽くしたが、手遅れ・・・・極度の激痛によるショック死。意識は30分も前からなかったらしい。
勝ちたいという執念のみで投げていたんだ・・・。
私は泣き崩れた。お兄ちゃんも泣いていた。
その後、かおりん、真希ちゃんにも知らせた。
二人とも電話ごしに泣いていた。真希ちゃんは、嘘だ!と言い続けていた・・・。
そして・・・剣の葬式の日・・・。剣には身寄りが親戚しかないため、私たちも葬式手伝い。
真希ちゃんはずっと泣いていた。私だって泣きたかった。
でも・・・泣いたらとまらなさそうだったから・・・泣かなかった。
兄もずっと暗い表情。よき友を失った兄・・・見てるのも辛い。
中澤先生も泣いてた。初めてみた泣き顔・・・。
かおりんは私と同じく泣くのを我慢して、真希ちゃんを慰めていた。
(どうして死んじゃったの?私たちを置いて・・・剣・・・)
暗いムードがあたりに充満。
と、そこに・・・信じられないことが起きた。
「おいおい・・・・暗いな。こんなんじゃあ、安心して成仏できねーぞ?」
この声は・・・え?剣?そんなバカな。
皆も信じられないという表情で振り返った。
まさしくそこには、剣が立っていた。
「剣!!」「ああ?俺は剣じゃなく、刃。神風刃(ジン)や。弟ちゅうやっちゃ」
弟!!??皆固まった。凍りついたように。
「嘘だろ?」
「弟!?」
皆の一斉の質問にウンザリしたのか
「もうエエやろ。線香あげたから帰るで。ホナな」
そう言って去っていった、が・・・
「弟なんて・・・いないよ」
真希がいきなり言った。
「ええ?でも今居た・・・」
真希は驚いた表情で反論。
「でも、小さい頃から剣しかいなかったよ!」
・・・・?じゃあ、今のは!
皆、刃、いや剣を追いかけた、がすでに姿はなかった。
「そんな・・・」
と、皆が落ち込んでると、ボールが転がってきた。
ボールにはメッセージが。
−皆、元気でな!俺は空から見守っておくぞ。俺のこと忘れるなよ!−
「バカヤロォ・・・」
「忘れるわけないじゃん」
皆、涙していた。泣きながら、空を見上げて−
「剣、今までありがとう!サヨウナラ」
と、言った。(END)