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№155
関西人Z 投稿日:2002/05/14(火) 17:55
短編第11弾 「○○霊」
いきなりだが、俺は霊が見える。
怨霊、自縛霊、浮遊霊、その他色々。
その中でも一番やっかいな霊がいる。それは、『なあ、遊ぼーやあ!』
「うるせー!俺は勉強してんだ。勝手にTVでも見てろ」
『TV見てもおもしろくないもん』
「知るか!」
いつも俺にまとわりついているこの霊だ。
名前は亜依。守護霊である。初めて亜依を見たとき、俺は驚いた。
普通守護霊というのは、祖父母や前世の血の繋がりのある人物だと聞いたことがある。
だから着ている服とか雰囲気とかは古くさいイメージがあった。しかし、どうみても亜依は今風の女の子だ。
血の繋がりがあるとは思えない。ちなみに亜依は俺のことを「兄ちゃん」と呼ぶ。
亜依は俺と遊ぶのをあきらめたらしく、後ろにあるベットに倒れ込んだ。
『あー、暇やなぁ』
俺はその声を無視し勉学に励む。ちなみに教科は苦手な数学。
「えっと、これがあーであれがこーで…」しばらく考えたが答えが出せずあきらめた。
「う~~~~~~~~っん」
立って伸びをしていると、
『隙有り!』
いつの間にか横にやって来た亜依が俺の腰に手を回し、
『dakiwakare!』
ベットに向かって俺を放り投げた。
「おわっ!」
バフッ
不意を付かれた俺は顔からベットに突っ込んだ。
うつ伏せの俺の背中に亜依は素早く乗り、激しく飛び跳ねる。『どうや兄ちゃん、参ったか!?』
こういう時、霊能力者は不便である。
霊から触られたり会話されたりするのはもちろん、今の亜依の攻撃など全て受けてしまう。
当然今は飛び跳ねているので痛いし重い。反撃したいのだが、こちらからの攻撃は当たらない。
叩こうが蹴ろうが物を投げようが、全て透けてしまうのだ。しかし、攻撃方法がまったく無いわけではない。
というか、亜依だけに通用する【物】がある。
だが…、(一度やってすごい泣いたからなぁ)
その【物】とは、牛乳である。
亜依は牛乳が嫌いで、昔あまりにも暴れた時に俺はキレて、
飲もうと思って持っていた牛乳をぶっかけたことがある。
当然亜依は霊なのでかからなかったのだが、亜依はそれも忘れ大泣きした。
それくらい牛乳が嫌いなのだ。ちなみにその後泣きやますのにえらく時間がかかったのを覚えている。
(やっぱやめよう)
「参った参った。だからもう止めてくれ」素直に降参すると、満面の笑みを浮かべて、
「しゃーないなぁ。これくらいで許しといたろ」
と言って背中から降りた。コンコン
「起きてる?ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
母親がやってきたらしい。俺はベットから降り、ドアを開けた。
「何?」
「ちょっと買い物頼まれてくれない?」
「まぁ別にいいけど」
「本当?じゃあこの紙に書いてある物を買ってきて」
「はいよ」ドアを閉め、着替えを始める。
『買い物に行くん?』
亜依がイスに座りながら訊いてきた。
「ああ。気晴らしには丁度良いだろう」
支度を済ませ、部屋を出る。
「行くぞ、亜依」
『ハーイ』昼を過ぎた商店街は人通りが少ない。
お陰で買い物もスムーズだ。「えっと、あとは…」
スーパーで買い物篭をさげながら、品物の書かれた紙を見直した。「よし、全部揃ったな。おい亜依…、あれ?」
今まで近くにいたはずの亜依の姿が見あたらない。
「どこに行ったんだ、あいつは」
店内を見回ったがどこにもいない。
「あ、もしかして」
一つだけ亜依が行くところに思い当たる所がある。
すぐに買い物をし終え、店を出た。店の横には結構でかいおもちゃ屋がある。
中には子供連れの親や、友達同士なのだろう園児くらいのグループがいた。その中に、
「やっぱり」
たくさんの人形が並んでいる棚の所に、亜依の姿があった。
「またここに来てのかお前は」
後ろに立ちそう言うと、クルッと後ろに振り返り、
『兄ちゃん、これ欲しい~』甘えた目でおねだりポーズ。
他の人がこのポーズを見せられたら買ってやろうかと思うかもしれないが、
当然俺には通用しない。「はいはい、それじゃ帰ろう」
ほっといて帰ろうとすると、
『無視せんといてや!』
俺の腕を引っ張って引き留めた。
「うるさい。いくらねだっても俺は買わんぞ」
『なんでー?ええやん別に』
「よくない」
『どれか一つでいいから買ってや』こうなったら亜依は買うまでここを動こうとしないだろう。
そこで俺は一つの条件を出すことにした。「それじゃあモノマネして似てたら買ってやるよ」
『ホンマ?』
「ああ、俺はウソはつかない」
『よーし頑張るで!』たかが人形のために気合いを入れる。
そんな亜依を見て俺は苦笑した。
それほど欲しいのだろう。『じゃあモノマネいきます。まずはフカキョン。
…深田恭子です。私のこと、いじめないで下さい…』
「さあ帰ろうか」
『ちょ、ちょっと待って。まだ一人しかやってないやん』
「いや、もう充分だ。お前の実力はわかった」
『い、今のはちょっとした練習や。次が本番やから』
「本当か?」
『そんな疑り深い目で見んといて。ほなやるで。
続きまして、Gackt。…こんばんは…Gacktどえす…昔京都に住んでて…』
「……」(スタスタスタ)
俺は無言で出入り口に歩き出した。
『…車の後ろにアホって書いてあ、ああー!ちょっと待ってーや!』
『酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い』
買い物の帰り道、さっきから横で亜依が同じ言葉を繰り返している。
しばらく無視していたが、いい加減鬱陶しくなってきた。「もういい加減黙れ、うるさい」
『ウチのこと無視するからやろ』
「お前のモノマネがあまりにも似てないからだ」
『そやかて、黙って行くことはないんちゃうん?』
「はいはい、悪かったな」
『なんやその態度は。ウチのことバカにしてんの?』
「ちょっとだけな」
ガンッ
思い切り頭を殴られた。
かなり痛い。「ってーな、何すんだよ!」
『兄ちゃんがいい加減な態度とってるからお仕置きしたんや』
「こいつ」
すぐに牛乳買ってきてぶっかけてやろうか。
そんなことを思いながら歩いていると、信号付きの道路に出た。
赤信号なので立ち止まる。あまり車は走っていない。
すると、「ん?」
向こう側の通りからボールを持った3才くらいの男の子がやってきた。
無邪気にボールを跳ねたりしている。と、
ポーン
ボールは男の子の足に当たってしまい、道路に転がっていく。
男の子はそのボールを追いかけ道路へ。そこへ
「!!?」
車が1台走ってきた。
中で運転している若者らしき人物は助手席に座っている人と喋っていて前を見ていない。「危ない!」
男の子は丁度ボールを拾い上げようとしているところで、車には気づいていない。
俺は買い物袋を捨て去ると、急いで子供の所へ駆け寄った。
走り始めた時、車はまだ少し遠かったので俺は男の子を担いでそのまま走り抜けようと考えた。しかし、
「わ!」 ドタッ
自分で思ってる以上に焦っているのか、転けてしまった。
「クソッ」
急いで立ち上がろうとするがすぐ立てない。
手間取ってしまい苛立つ。
そうするうちにも車は近づいてくる。「あ!!」
男の子はやっと車に気づいたらしい。しかしその場から動こうとしない。
いきなりのことで身体が動かないのだろう。「は、早くしなきゃ」
俺は這うように男の子に近づいた。
そしてやっと男の子にたどり着いたその時、「!!」
気が付くと車はすぐそこに!
(避けきれない!)
そう思ってから、スローモーションのように流れた。
中の2人の表情がはっきり見える。
未だに気づかず、笑っているのがわかった。もうどうすることも出来ず、俺は男の子を抱きしめた。
無意識の行動。せめて男の子だけでも助けたいと思っていたからか。
目をギュッと閉じ、衝撃に備えた。
[ ]
一瞬の間 そして
(え!?)
奇妙な感覚にとらわれた。
浮遊感
しかし俺は車に当たった感触はない。
ゆっくり目を開けてみる。
するとさきほど居た位置よりも少し横に進んでいて、俺は横たわっていた。
その場所は、車と自分が当たらない位置。(?ということは…)
俺は車が通り抜けていったであろう先を見てみると、
かなりのスピードを出していたので、小さくなるくらい先へ行っていた。何が起こったのかわからなかったが、助かったらしい。
「でも、一体…」
『ホンマ危ないことするわ、兄ちゃんは』
「え?」
後ろを見ると、亜依が立っていた。
「亜依が、助けてくれたのか?」
『当たり前や、ウチはそのためにおるんやから』
守護霊の力発揮といったところか。
「でも、どうやって」
『簡単や。車が兄ちゃんに当たる前に助かるところに飛ばしたんや』
「飛ばした?」
『うん、こんな感じで腰持って』
亜依は俺を助けたときのやり方を身振り手振りで説明している。
『dakiwakare-!って。えへへ』
「…あっそう」
まさかそんな方法で助けられたとは…。
無事で嬉しいような、そんなやり方で助けられて悲しいような。「あ、そうだ」
あまりにも急な展開だったから男の子のことを忘れていた。
見ると男の子は俺の横に倒れていた。「大丈夫か?」
抱き起こしてやると、男の子も何が起こったのかわからないようできょとんとしていた。
どうやら無事らしい。「怪我はないな?」
「……(コクリ)」黙って頷く。
「よし、じゃあ今度からは気をつけろよ」
そう言ってやると、黙って頷き駆け足で俺達の横を通り抜けた。
その後ろ姿を二人で見ていると、男の子は急に立ち止まりこちらに向き、「…ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん…」
「『え?』」
小さい声で御礼を言うと、男の子は走っていった。
『…なあ兄ちゃん。なんであの子ウチのことが見えたんや?』
亜依は小首を傾げる。
「…多分あのくらいの子は不思議な力があるんだろう。だからお前のことも見えたんじゃないか?」
『そうか。そうなんか…』
そう言う亜依の顔は、不思議そうな顔をしていた。
俺はさきほど投げ捨てた買い物袋の所に向かい、拾い上げた。
「あちゃー、やっぱ卵割れたか。買い直さなきゃ。
亜依、買い物し直しに行くぞ……あれ?」返事が返ってこない。
不思議に思い亜依の方に顔を向けて見た。『…』
男の子が去っていった方向をジッと見ている。
後ろから見ているので表情はわからない。「どうした?一体」
横に立ち、声をかけてみる。
すると、フッとこっちを向いて、『別にー♪』
何故か笑っていた。
「??」
わけがわからず頭に?を浮かべていると、
『さ、買い物し直しに行こか』
ご機嫌にスキップしながら歩いていく亜依。
「…ち、ちょっと待て」
その姿に呆気にとられていた俺は、急いで呼び止めた。
『何?』
「お前、なんで笑ってんだ?」
『んー、なんかな』
亜依は照れくさそうに言った。
『兄ちゃんを通じて人助けしたことも初めてやけど、兄ちゃん以外の人から御礼言われたのも初めてやから』
「…」
『なんかな、メッチャ嬉しいねん』
純粋な笑顔を俺に向けて話す姿は、今まで見たことのないくらい輝いて見えた。
『ほら、早く買い物し直しに行かな。お母さんに怒られるで』
「あ、ああ」先に行く亜依の後ろ姿に俺は、
「(ありがとな)」
小さな声で御礼を言い、亜依を追いかけた。
~END~