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IEEE1395 投稿日:2002/05/30(木) 12:10
「食い気より色気」
梅雨時特有の湿っぽさが残るも、久々に晴れた日曜の午後。
モーニング娘。のメンバーである保田圭は、公園のベンチでぼんやりと
空を眺めていた。(きっとかおりが同じことやってたら交信してる、って言われるんだろうな……)
だが、そんなことを言いそうな若年メンバー達は側にはいない。
きっとどこかではしゃいでいるのだろう。(まったく、なんでみんなあんなに元気なのかしらねえ)
今日は遊びに来ているわけではない。
ロケをするためにこの公園に来て、つい先程までは順調に収録も進んでいたのだが
辻加護がはしゃいでカメラマンにぶつかり、カメラを落として壊したために
しばらく休憩を挟むことになったのだ。
元気の塊のような彼女達も最初の3分ほどは神妙な面持ちで座っていたのだが、
久しぶりのいい天気の公園、というシチュエーションには我慢できなかったようで
今は他のメンバー達とはしゃぎまわっている。(まあ、確かに今日はいい天気だしね。あ〜あ。洗濯物、溜まってたんだけどなぁ)
他のメンバーに『おばちゃん』と呼ばれるのも仕方がないような、
そんな思考回路で保田はつかの間の休息を楽しんでいた。(そうそう、戦士にも休息は必要なのよ!)
そうこうしているうちに保田はうとうととし始めたが、聞きなれない
遠慮がちな声で現実へと引き戻される。「あのー、保田さん」
その声で起こされた保田が寝ぼけ眼で見たのは、
こちらの方を不安げに伺う辻の顔だった。
聞きなれないなと思ったのはいつもの元気な声ではなかったからだろう。「なんだよ〜、おばちゃんはお前らと走り回る体力なんてないんだよ〜」
保田は嬉しそうな顔でそういい、辻の頭をなでた。
だが、辻はそれには取り合わずに言った。「保田さん、ちょっと聞いて欲しいことがあるんですけど」
いつもと違う辻の様子に、保田も思わず姿勢を正す。
「ん、どうした? とりあえずここ、座んなよ」
そう言うと、辻は保田の横にちょこんと腰掛ける。
「で、何?話って。私にできることなら相談にのるよ」
そう言って真剣な顔をする。別に怒ってるわけではないのだが、
この顔をされると『怖い』と言われるのも分かるな、と辻は思った。
だが今はそんなことはどうでもいい。
頭を振りながらそんな考えを消し去って、ようやく口を開いた。「保田さん、私、好きな人できたんです……」