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関西人Z 投稿日:2002/06/21(金) 20:19
短編第12弾 <リハビリ=…>
「もういいから放っておいてよ!」
私は両親に向かって叫んだ。
「しかしだな、なつみ。今やらなきゃ一生歩けないんだぞ」
「そうよ。辛いかもしれないけど、きっと歩けるんだから」そんなの嘘だ。
私はもう、一生歩けることはないんだ。
だって、いくらリハビリしても兆しがみえないんだから。「だから頑張ろう、なつみ」
父は近づいてきたが、私はそれを許さなかった。
「もう出てって!!」
枕を父に向かって投げた。
するとそれを胸の所で掴んだ父は、悲しそうな目をして立ち止まる。「…なつみ、もう一度よく考えてくれないか」
「…」
「ハァ、わかった。もう帰るよ」
「あなた!」
「いいんだ、行こう」両親は部屋を出ていった。
一人になって残った物。
―孤独感と罪悪感―
でも、どうしようもないよ。
今の私じゃ…。リハビリをしなくなって数日後。
担当医の先生が、私の病室にやってきた。
そして、私を車椅子に乗せてどこかへ連れていく。「どこへ行くんですか?」
「それは行ってのお楽しみ」何回訊いてみても同じ事しか言ってくれない。
しばらく連れられるままでいると、違う病棟のある部屋へやって来た。
リハビリ室っぽいけど、私が使っていたところと何か違う。
なんか、空気が重いっていうか…。
人はあまりいない。「先生、ここは?」
「シッ、あそこを見てごらん」先生が小声で指さした方向を見た。
そこには、中学か高校生くらいの男の子が歩行のリハビリをしている。
でも普通じゃなかった。
何がかというと、汗のかき方が尋常がないし、腕や顔がアザだらけなのだ。
アザは多分転けてできたものだと思う。「ここはね、特別なリハビリ施設なんだ。
彼はね、大事故に巻き込まれて、いわゆる植物人間になってたんだよ」
「えっ?」先生の言葉に、私は耳を疑った。
「あれは死傷者をたくさん出した事故だった。
彼は奇跡的に命は助かったが、もう2度と起きあがることは無いと思っていた。
しかし奇跡的に意識が回復したんだ。でも、それは彼にとって過酷な日々の始まりだった。
動かない身体を動かすのは並大抵のことじゃない。
僕たち医師は、意識が回復しても起きあがることができない、歩くことができない人達をたくさん見てきた。
リハビリが辛くて挫折する人も…。
そして彼もその一人だと思っていた。
しかし、その思いは裏切られた。
今彼を見てわかるとおり、支えが必要ながらも自分の脚で歩いてるだろ?
僕は思った、彼は自分の努力から奇跡を起こしたんだと」私は先生の話に耳を傾けながら、男の子をジッと見ていた。
汗だくになり、転げながらも、必死でリハビリする彼の姿を。それから私は、男の子のリハビリ姿を見ているうちに、ある衝動にかられる。
―話してみたい―
30分後
男の子は息を切らし、看護婦さんの手を借りて車椅子に乗った。
そして、汗を拭きながら出入り口の前にいる私の方へ向かってくる。「あ、あの」
私は意を決して話しかけると、
「はい?」
男の子は私の前で止まった。
「あの、少しお話ししたいんだけど、いいかな?」
「え、あ、別にいいですけど。じゃあ場所変えますか?」
「うん」私達は近いということもあり屋上へ向かった。
外に出ると、青く澄み渡った空が見える。
よく晴れている証拠だ。「で、話って?」
男の子は私の方へ向き直った。
「うん。あのね、さっき先生に聞いたんだけど、植物人間だったって」
「ああ、うん、そうらしいですね。僕はあまり実感無いんですけど」
「それでね、さっきリハビリしてるの見てて思ったことがあるの」
「なんですか?」
「…どうしてそんなボロボロになるまでリハビリできるの?辛くないの?」男の子に比べたら私は軽いほうなのかもしれない。
でも私は辛いし怖い。頑張ったとしても歩けなかったらと思うと。
だから逃げ出している。私は訊きたかった、どうしてそこまで我慢できるのかを。
「そうだなぁ…」
風で髪をなびかせながら、男の子は空を見上げ考えている。
そして、こう言った。「『意地』、かな?」
「え?」意外な答えだった。
「意地って、それだけで?」
「うん。実は担当医の人が母と話していたのを聞いたんです。『歩くことは不可能かも』って。
それを聞いて、『絶対歩いてやる。いや、走ってやる』って心に決めて。
だから、意地ってやつだと思います」
「…ぷ、アハハ」私は笑った。
だって最初、夢や希望であそこまで頑張ってるって思ってたんだもん。
それが『意地』の一言だから。でも…「はは、やっぱ笑いますよね」
「うん。でも逆に良かったよ。実はね、私リハビリしてももう歩けないって思ってたんだ。
でも、それ聞いたらなんだかやる気になってきたよ」
「そうですか、そりゃ良かった」
「明日から、私も頑張るよ」
「そうだ、なんなら競争しましょうか」
「競争?どっちが早く歩けるかで」
「そう。やりますか?」
「ようし、なっちその勝負受けるよ」私がガッツポーズをすると、
「「……フフ、アハハハハ!!」」
なんとなくおかしくなって、二人で大声を出し笑いあった。
ありがとう、なっちもう逃げない。
明日から、一緒に頑張ろうね。〜END〜