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関西人Z 投稿日:2002/07/22(月) 00:10

短編第16弾 「月と太陽」

引っ越しの準備をしていると、押入の奥から小さな缶が出てきた。
何が入っているのか気になり開けるみると、そこには一枚のコインが。
片面には太陽、もう片面には月が描かれている。

(これって、もしかして)

そう、それは俺と真希の運命が決められたコインであった。

当時、俺と真希は普通の大学生だった。
就職先も決まり、迫る学生生活最後の夏休みを二人で満喫しようと思っていた俺の所へ一本の電話。

「どうしよう、どうしよう…」

真希だった。

何か必死のような、それでいて泣きそうな声。
「ゆっくり、落ち着いて」と真希の気持ちを落ち着かせてみると、
少しだけ落ち着きを取り戻した真希は言った。

「あのね、ウチの家族がね、外国へ引っ越すことになったの」

そう言って泣き出す真希。
その言葉は、すぐに俺の頭の中で認識することはできなかった。

「外国って、どういうことだ?」

訊いても何も言ってくれず、ただ泣きじゃくる真希。

「と、とにかく今から会おう。いつもの公園で、いいな」
「ヒック、うん」

電話を切った俺は、急いで身支度を済ませ家を出た。

日差しが強く、じりじりと暑い公園。
俺は日陰にあるベンチで座って待っていた。

すると、前からゆっくりと歩いてくる真希が見えた。
俺は動かず、ただジッとここへ来るのを待つ。

「……」

目の前に立った無表情の真希は、俺の顔を少し見た後、

「う、うぅ、うわーん!」

俺の胸に泣きついてきた。

「…」

俺は何も言わず、ただその長い髪を撫でやる。

しばらくして泣きやんだ真希から事情を聞いた。
父親の仕事で海外へ行くことが決まったらしい。

「ねえ、私どうしたらいいんだろう」

既に泣きやみ落ち着いた真希は隣に座り、俺がさっき買ってきたジュースを一口飲み、訊いてきた。

「両親は何て言ってるの?」
「…どっちでもいいって。私はもう大人だから何してもいいって」
「真希は、どうしたい?」
「私は…、家族みんな好きだから、外国へ行ってもいいと思ってる。………でも」

一つ間を空け、俺の方を向いてこう言った。

「あなたのことも好きなの!離れたくないの!」

俺の胸に顔を埋め、身体をぎゅっと抱きしめてきた。

「ねぇ、私、どうしたらいいの?決められないよ、こんなこと…」

小さく震える真希の肩を抱きしめ、宙を見上げた。

(いくら恋人でも、俺には引き留める権利はない。でも、俺も真希と離れたくない。
 どうすれば………あ!)

一つだけ、案が浮かんだ。

「真希」

俺はポケットから財布をとりだし、一枚の銀色のコインを真希の目の前に出した。

「何、これ?」
「このコインはな、昔自宅の押入の奥で見つけたんだ。
 以来お守りってわけじゃないけど、ずっと持ち歩いてる」
「それをどうするの?」
「…真希がこれからどうすればいいのか、俺には決められない。
 だから、真希がこれを使って決めるんだ」
「……」

真希は俺の手からコインを摘み上げた。

「片面が外国へ行く、もう片面がここに残るっていう感じだ」

しばらくコインを眺め、考え込んだ真希。
そしてこちらを向き、力強く頷いた。

「うん、わかった。これを使って決める。…太陽なら家族と一緒。月ならあなたと一緒」
「一回キリだ。どっちの結果になろうが後悔はするな。
 俺も、たとえ真希と離れることになっても後悔しない。いいな?」
「うん。わかってる」

一つ、息を大きく吸い込んだ真希は、コインを空へ高く放り投げた。

「…ここにあったのか、どおりで見つからないはずだ」

じっくりとコインを見つめる。

(今考えると無茶したよな。よくあんなことしたもんだ)

などと感慨にふけていると、

「んあ〜、おはよぅ」

眠そうな目を擦りながら、真希は部屋へ入ってきた。

「何がおはようだ、もう昼だぞ」
「いいじゃん別に。ところで何見てるの?」

俺はコインを見せた。

「ほら、このコイン。懐かしいだろ?」
「あ!まだあったんだ」

真希は俺の手からコインを拾い上げた。

「懐かしいなぁ、このコイン」

コインを見つめる真希。
ある日、二人でこのコインは一生の宝にしようと話し合い、缶の中に大事に保管した。
しかし、大事にしすぎて何処に置いたのかすっかり忘れていた。
それが今、こうして出てきたのはなにか運命を感じる。

「久々にまたこれで決めてみようか?」
「何を決めるの?」
「そうだなぁ」

俺は少し考え、そして少し笑みを浮かべながらこう言った。

「結婚するかしないか、決めてみようかな」

〜END〜