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MARIA 投稿日:2002/08/04(日) 15:44

俺の名前は矢口俊祐(しゅんすけ)
高校の3年間、部活に明け暮れ、何にも楽しいことをしていなかった。
だから大学では高校でできなかったことを絶対すると思っていた。
そんな矢先、親父からの電話。
「おい!お前○○大学だよな。」
「いきなりなんだよ!そうだけど何?」
「今度からお前と同じ大学に入る子がお前のマンションに明日から住むからよろしくな」
「はぁ?なんだよそれ?おい!親父」
そういう前に電話が切れてしまう。
俺は親父の勝手な決め方にうんざりしつつ、
仕方ないと思い、姉ちゃんに電話を掛ける。
「もしもし、姉ちゃん」
「あっ、どうしたの?」
俺のひとつ上の姉ちゃんがいる。
真里と言って、とてもうるさいのであんまり自慢したくない。
しかも身長がないので、余計にウザイ。
子供がぴょんぴょん跳ねてるみたいな感じだ。
そんな姉ちゃんは女子大の大学生である。
「親父が勝手に住む子を決めちゃったんだけど」
「ん、まあいいじゃない。そのマンションお父さんのなんだからさ」
「わかったよ。姉ちゃん、大学サボるなよ」
「うるさ〜い!あんたこそ遊びすぎるなよぉ〜!」
「はいはい。じゃあな!」
電話を切る。
俺はベッドに横になった。
「はあ……」
ため息をつき、眠りについた。

次の日の朝
ものすごい早い時間に親父から電話が。
「もしもし、俊祐。朝早くにゴメンな」
「ホントだよ〜。で、何?」
「昨日の話の続きだけど……午前中に来るって言ってたから、家を出るなよ。
向こうは鍵持ってないんだから」
「へいへい。わかったよ」
「お、随分いさぎいいな」
「姉ちゃんに言われたんだ。しょうがないって」
「あいつはできた娘だからな」
親父は姉ちゃんの事を誇りにしている。
俺から見ればただうるさいだけなんだけど……。
「はいはい。どうせ俺はできた息子じゃないですよ〜だ!」
「まあまあ、怒るな。それじゃ忙しいから、じゃあな。」
親父は電話を切る。
俺はこの電話で眠気が吹っ飛んだ。
そういえばこの部屋はとてもではないが汚いので
俺は掃除をすることにした。

掃除も終わり、一人でボーッとしていると
ピンポーン♪
ベルが鳴った。
俺は家のドアを開けると…
そこには女の子が2人立っていた。
一人じゃなかったのか……
「こんにちは」
俺が声を掛けると…
「こんにちは」
と2人同時に返してくる。
「まあとりあえず入って」
「お邪魔します」「すいません」
と、2人とも家に入っていった。

部屋に入ると、俺は2人に部屋を教えてリビングのソファーに座っていると…
一人だけリビングに出てきた。
「ここ広いですね〜」
「そうかな?」
「そうですよ。私の家よりちょっと広いくらいですよ」
「ふーん。そうなんだ」
「はいぃ〜」
嬉しそうに話をしている。
でも、なんで年頃の娘を俺なんかと住むのを許可したんだろう?
しばらくして、もう一人の子も出てきた。
「やっと来たね。それじゃあ自己紹介。俺の名前は矢口俊祐と言います。」
すると、先にリビングに出てきた子が
「石川梨華です!おんなじ大学に行くんだよね。よろしくねっ!」
「よろしく!」
いまどきの若い子って感じだ。
そして、もう一人の子が
「高橋愛ですぅ〜。近くの高校に編入するためにここに来ましたぁ〜」
高橋さんの言葉を聞いたとき、俺はビックリした。
なぜならかなり訛っていたから。
「やっぱりビックリしてるね。愛ちゃんは福井県に住んでいたから
とっても訛ってるんだよね。本人は訛りがとれたって言ってるんだけど…」
「とれたじゃないですかぁ〜!梨華さんバカにしないでくださいよぉ〜!」
(いや、とれてないんですけど…)
俺は心の中でそう思った。

その後もお互いいろんな話をした。
石川さんは地元ではとても美人だと言われていたり、
高橋さんも福井ではかわいいで有名だったって事を聞いたり…
もちろん自分では言わずにお互いが言い合っていた。
そんな2人を見ていて、俺はとっても楽しかった。

気づけば時間はもう12時
「ねえ、ご飯食べに行かない?俺がおごるからさ」
「えっ、いいんですか?私出しますよ」
「いいの、今日は俺が出すから」
「じゃあ〜行こうよぉ〜」
「わかったから、それじゃあ石川さん、高橋さん行くよ」
そういうと、石川さんの表情が暗くなる。
「あの…その石川さんって言い方、やめてくれませんか?」
「えっ、じゃあなんて言えば…」
「<梨華>って呼んでほしいんです」
俺は女の子の名前を呼び捨てで呼ぶのは好きじゃなかったので、
「うーん、梨華はちょっとな…じゃあ<梨華ちゃん>でいい?」
「はい!私も<俊祐さん>って呼びますね」
そう言うと、高橋さんも
「私もぉ〜高橋さんって言われるのぉ〜嫌なんですけどぉ〜」
と、訛った言い方で言ってきた。
「じゃあ<愛ちゃん>でいいかい?」
「はいぃ〜。私もぉ〜<シュンさん>って呼びますぅ〜」
そう言って、3人で近くのファミレスに向かった。

俺達の家から歩いて10分。
ファミレスを見つけた。
意外と空いていたので、そんなに時間もかからずに座ることもでき、俺達は他愛もない話をしていると
「いらっしゃいませ〜」
店のウエイトレスさんがオーダーを聞きにやってくる。
どこかで見たような顔…あっ!
「姉ちゃん!」
「あっ!俊祐!」
「えっ!俊祐さんのお姉さん?」
梨華ちゃんはビックリしている。
「へえ〜この子達が同居人ねぇ〜」
「何だよ!姉ちゃん!いつからバイトしてるんだよ?」
「そんなことより紹介させてよ。
私は矢口真里。背はちっちゃいけど、こいつよりひとつ上だよ。
よろしくね!キャハハハハ!」
梨華ちゃんと愛ちゃんは姉ちゃんにおされてタジタジ。
「あの…石川梨華です」
「高橋愛ですぅ」
やっぱり愛ちゃんは訛ってる。
「あっ、いけね。仕事しなきゃ。ご注文をどうぞ」
俺達は注文をする。
気を使ってくれたのか2人は割とお金のかからないものを注文した。
その後も話をして俺達は店を出る。
姉ちゃんはまだバイトするらしいので、ここでサヨナラ。
そして、また同じ道を引き返した。

家に帰っても、俺達3人の話はつきない。
いろいろ話をしていたら、恋愛の話へ。
「ねえねえ、俊祐くんって彼女いるの?」
「いや、いないけど」
「今までは?」
「前にはいたけど…姉ちゃんに邪魔されたよ。」
そうそう、姉ちゃんの彼氏と俺の彼女ができちゃったんだよねぇ〜
「そういう梨華ちゃんは彼氏いるの?」
「ううん、私もいないの。なんか彼氏がいそうとは言われるけど…」
「俺も初めて会ったときはそう思った」
「もう、ひどーい!見た目で判断しないでよぉ」
「ああ、ゴメンゴメン。愛ちゃんは?」
「えっとぉ〜私もいないんですよぉ〜」
「えっ、愛ちゃんも?」
「はいぃ〜」
「へえ〜、3人ともいないなんてなんか奇遇だね」
「そうだね!この際だから3人で付き合っちゃう?」
梨華ちゃんがそういうと、俺はドキッとした。
愛ちゃんもビックリした顔で梨華ちゃんを見る。
「うそうそ、冗談だよ。冗談」
「もう〜!ビックリさせないでくださいよぉ〜」
愛ちゃんも俺もちょっと安心した。
でも、どうやって3人で付き合うんだろう?

今日の時の流れはものすごく速い!あたりはもう夕方である。
俺が夕食の準備をしていると梨華ちゃんが
「私作ろうか?」
と言ってくる。
「梨華ちゃんが?」
「うん、わたし、お料理上手なんだ。
お昼もおごってもらったし、そのお礼も兼ねて…」
「うん、じゃあよろしくね。冷蔵庫の中身は勝手に使っていいから。
俺は生活道具でも買ってくるね」
「私もシュンさんと一緒に行きたいですぅ〜」
「わかった。愛ちゃん行こうか?」
「はいぃ〜」
こうして梨華ちゃんは夕ご飯作り。
俺と愛ちゃんは雑貨屋で買い物に出かけた。

俺は愛ちゃんと共にバイクの駐輪場へ。
「ええーっ!シュンさんてぇ〜バイク持ってたんですかぁ〜?」
「まあね」
俺は大学に推薦で入ったので、暇になる時期が長く、バイクぐらいならと思い、免許とバイクを取ったのだ。
ちなみに車の免許も持っているが、肝心の車がない。
「乗るよ」
俺は愛ちゃんにヘルメットを渡し、バイクにまたがる。
愛ちゃんも俺の後ろに乗る。
「しっかりつかまっててね」
「はいぃ〜」
俺は背中になんともいえないのを感じながらも、バイクを走らせる。
この辺の道は知っているので、快調にとばせた。
その間、愛ちゃんは怖いのかわからないが俺の腰にしっかりつかまっている。
15分ぐらいして、雑貨屋に到着!
「着いたよ」
俺が声をかけても愛ちゃんはしかみついたまま。
「愛ちゃん!」
「えっ!」
ビックリしている。
「もう着いたんですかぁ〜?」
「うん、そうだけど…大丈夫?」
「あ、はいぃ〜。なんとかぁ〜」
そういって、愛ちゃんはヘルメットを俺に渡す。
俺達は雑貨屋に入った。

雑貨屋は割と空いている。
たぶん閉店時間が近いからであろう。
俺と愛ちゃんは生活に必要なものを買い込んでいる。
愛ちゃんはとても楽しそうだ。
さっきまではバイクで放心状態になっていたのに…
会計を済ませてバイクに荷物を積んでいると
愛ちゃんがバイクを見て怖がっている。
「どうしたの?」
「バイクが怖いぃ〜」
震えている。ちょっと行きでとばしすぎたかな。
「大丈夫だよ。俺がしっかり運転すれば事故んないから」
「でもぉ〜」
「ゆっくり行くからさ、ねっ」
「…わかりましたぁ〜」
そういうと俺からヘルメットを受け取って、バイクに乗った。
やっぱり怖いのか、俺にしっかりつかまっている。
「じゃあ、行くよ」
そういって、俺はバイクをさっきよりゆっくりしたペースで走らせる。

行きよりも遅く、20分くらいで到着。
愛ちゃんはさっきよりかは大丈夫だったそうなので、笑顔を見せている。
「ただいま」
「ただいまぁ〜」
「あっ、お帰りなさい!ご飯できてるよ」
「はーい」
俺と愛ちゃんは手を洗い、席に着く。
「「「いただきます」」」
梨華ちゃんが作ったのはパスタだった。
食べてみると…
「美味いよ。梨華ちゃん」
「梨華さん。おいしいですぅ〜」
「嬉しい!おかわりあるからたくさん食べて」
「うん」
愛ちゃんも美味しいみたいな顔をしている。
しかし、梨華ちゃんの料理は本当に美味しい。
あっという間に全部食べてしまった。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」
「どういたしまして」
「じゃあ〜洗い物はぁ〜私がやるぅ〜」
「愛ちゃんが?」
「はいぃ〜」
「じゃあ愛ちゃんよろしくね」
愛ちゃんは台所。俺と梨華ちゃんはリビングに向かった。


「ねえ、私達明日から大学生なんだよね」
「ねぇ〜」
俺も相槌を打つ。
「大学ってどんなところだろうね」
「そういえばなんでこの大学選んだの?」
「親から自立したいっていうのがあったし…本当は俊祐さんに…」
「終わりましたぁ〜」
梨華ちゃんが話している最中に愛ちゃんがでてくる。
「ありがとう」
愛ちゃんにお礼を言うと、顔が真っ赤になっている。
でも、嬉しそうだ。
梨華ちゃんは何か言いたそうだったのが気になるが、触れないことにしよう。

「今日はもう寝ようか?明日早いし」
「そうだね」
「じゃあ私先に入ってくる」
梨華ちゃんはバスルームに向かった。
その梨華ちゃんが座っていたところに、愛ちゃんが座った。
こんどは愛ちゃんと会話。
「さっきはゴメンね。バイク飛ばしすぎたかな」
「いえ、初めてだったんでぇ〜しょうがないですよぉ〜」
「そう、それならよかった。
愛ちゃんは何で近くの高校に編入してきたの?」
「梨華さんにぃ〜ついていくためですぅ〜」
「梨華ちゃんに?」
「はいぃ〜、梨華さんってぇ〜私より年上なのにぃ〜おっちょこちょいなんでぇ〜なんかぁ〜ほっとけないんですよぉ〜」
「へえ〜」
「それでぇ〜梨華さんってぇ……」
俺は梨華ちゃんが思いっきりドジだってことなどをいろいろ聞いた。
愛ちゃんは梨華ちゃんがあがってくるまでずっと楽しそうに話していた。

「お風呂あがったよ」
梨華ちゃんが出てくる。
ピンクのTシャツにピンクのパジャマを着ている。
「はぁーい〜じゃあ〜今度は私が入ってくるぅ〜」
そういうと今度は愛ちゃんがバスルームに向かう。
「じゃあ私もう寝るね」
「うん、明日寝坊しないようにね」
「俊祐さんもね」
俺はうなずくと梨華ちゃんも笑顔を見せて部屋に向かった。
ちょっとテレビを見ていると誰かが後ろから俺に抱き付いてきた。
「だぁ〜れだぁ〜?」
その訛りはどう考えても…
「愛ちゃんでしょ?」
「あたりぃ〜!」
「風呂に入る時間早いね」
「そうですかぁ〜?私はぁ〜普通だと思うんですけどぉ〜」
「あはは、とりあえず離してくれない?」
そう言うと愛ちゃんは恥ずかしかったのか、あわてて離れた。
「梨華さんはぁ〜?」
「もう寝ちゃったよ」
「じゃあ私も寝ますぅ〜」
「うん、おやすみ」
「はいぃ〜!おやすみなさ〜い」
愛ちゃんは満面の笑みで部屋に入っていった。
俺も眠くなってきたので、風呂に入って、自分のベッドで眠りについた。
ちなみに風呂は女の子の香りが漂ってた。

翌日、7時ちょっと前に俺は起きた。
毎日このくらいの時間に起きるように体がもう慣れている。
そんなことで誇らしく思っている俺がいた。
ズボンをはき、Yシャツを着てからリビングに出る。
そこにはまだ誰もいない。
3人分の朝食を作っていると、
「おはよう!」
梨華ちゃんが笑顔ででてくる。
「ごめんね、ご飯作らせて」
「大丈夫だよ。ところで愛ちゃんは起きないのかなぁ?」
「いいんじゃない?愛ちゃん今日は休みだし」
「そうだね」
朝食を作り終わり、テーブルに並べると
梨華ちゃんも席につく。
「「いただきます」」
こんな感じで朝食を済ませて、学校に行く準備をする。
俺は10分で終わったのだが梨華ちゃんは一向に終わる気配がない。
さらに20分後、やっと出てきたと思ってたら、俺はビックリした。
「梨華ちゃん、きれいだね」
そう、梨華ちゃんは化粧をずっとしていたのである。
「えへへ、恥ずかしい」
「いや、きれいだよ」
「俊祐さんに言われると嬉しいな」
「じゃあ行こう」
「はい」
大学の入学式に向かう俺と梨華ちゃん。

大学には電車で行く。
別にバイクで行くのもいいのだが、愛ちゃんとの件もあるのでやめておいた。
「混んでるね、ここ」
「そうだね」
ここは普通満員電車にならないのだが
たぶん大学の入学式の関係で、人が一気に来たからであろう。
「ねえ」
満員電車を見て、梨華ちゃんが俺に話しかける。
「手つながない?」
「えっ!なんで?」
「はぐれたら俊祐さん困るでしょ?」
梨華ちゃん、子供じゃないんだから…
でも、そんなことも悪くないなと思い
「いいよ」と言って、梨華ちゃんと手をつないだ。
梨華ちゃんの手は柔らかい。
俺はドキドキしながらも、梨華ちゃんと共に満員電車に突っ込んでいった。

満員電車に悪戦苦闘しながらも、大学の最寄り駅につく。
俺はもういいかなと思って手を離そうとすると…
「……離れないで…」
梨華ちゃんが切ない声で下を向きながら言ってくる。
「離さないで…お願い」
そう言うと俺の手を強く握った。
「わかった」
そんな梨華ちゃんにおされて、この言葉しか出ない。
こうしてこのまま手をつないだままで大学内に入った。

大学に入ると、梨華ちゃんと別れ、入学式が始まった。
学長の長〜い話を上の空で聞いていると、誰かが俺の肩をツンツンとたたいてきた。
言ってなかったが、梨華ちゃんとは学部が違う。
……ってことは…誰?
「シュン?シュンだよね?」
えっ?誰?
「まさか忘れた?美貴だよ、藤本美貴」
「美貴ちゃん?」
そう、俺の隣にいたのは幼なじみの藤本美貴ちゃんなのである。
俺と同い年で、小さい頃はよく姉ちゃんと一緒に遊んでた。
でも、高校は二人とも違う学校に進学。
しかも、俺は部活に明け暮れていたので会う時間なんて全くなかった。
姉ちゃんから大学に入ったと言うのを聞いたが…まさか俺と同じ大学とは…

入学式は何事もなく、無事に終了。
梨華ちゃんとは校門で会う予定になっている。
俺の隣には美貴ちゃんが立っている。
「ねえ、このあとヒマ?」
美貴ちゃんが聞いてきた。
「ん?ヒマだけど何かあるの?」
「久しぶりにお話ししたいなと思うんだけど」
「俺はいいけど、梨華ちゃん大丈夫かなぁ?」
「梨華ちゃん?」
「ああ、俺のマンションで一緒に住んでいる子で、この大学の1年生だよ」
「えっ!同棲?彼女?」
「違う。二人きりじゃないし、もう一人いて3人暮らし。彼女じゃないよ」
「ふーん、そうなんだ」
なんか嬉しそうだ。なんで?
「俊祐さ〜ん!」
遠くから独特の高い声が…
「梨華ちゃん、こっちこっち」
呼び寄せると、美貴ちゃんがちょっと不機嫌になっちゃった。
梨華ちゃんも美貴ちゃんに気づくと不機嫌になった。
なんか悪い事したかなぁ〜?

「俊祐さん、この人は…」
「ああ、俺の幼なじみ。藤本美貴ちゃん。偶然だけど、さっき会ったんだ。」
「藤本です。よろしく」
握手を求めてる。
「石川梨華です。よろしくね」
二人は握手している。
「ねえ、美貴ちゃんと喫茶店に行くんだけど、梨華ちゃんも行く?」
「うん、いいよ」
「じゃあ決まりだね。梨華ちゃん、シュン早く行こう!」

5分後
俺達は喫茶店について、楽しくおしゃべりしている。
「でも、ビックリした。シュンと同じ大学だなんて」
「そうだね」
「2人とも知らなかったの?」
「うん、俺たち高校違ったし…会わなかったから。部活忙しかったし」
「何の部活やってたの?」
「バレーボール」
すると美貴ちゃんが驚いた顔をした。
「美貴ちゃん、どうした?」
「私も高校はバレーだったよ」
「うそ!マジで?」
「うん」
「すごい偶然だね。私はテニスやってたんだよ」
「だから梨華ちゃん色黒いんだ」
「もう、美貴ちゃん言わないでよ。気にしてるんだから」
とまあこんな会話を交わしていると、あたりはもう夜。
「帰ろうか?ご飯もあるし、愛ちゃん心配するよ」
「ああ、そうだね。じゃあ俺たち帰るよ」
「その前に携帯番号教えて」
「いいよ」
俺達は番号を交換している
「そんじゃあね」
「うん、明日大学でね」
俺は梨華ちゃんと共に帰りにつく

家に着くと、愛ちゃんが待ってましたと言わんばかりの笑顔で出迎えてくれた。
「もお〜!梨華さんもぉ〜シュンさんもぉ〜遅いですよぉ〜!」
「ごめんね愛ちゃん、ご飯作るから」
「早くしてくださいねぇ〜!あ、シュンさんお話しましょぉ〜!」
そういって俺の腕を引っ張り、半ば強引に座らせる。
そういえば、いつから梨華ちゃんがご飯作る担当になったんだろう?
「大学でぇ〜何かありましたぁ〜?」
唐突に言われても困ったが、とりあえず返事しておく。
「いや、別に何もないけど」
「そうですかぁ〜(よかったぁ〜)」
どうやら愛ちゃんは大学でナンパされたかってことを聞きたかったらしい。
「ん?何か言った?」
「えっ!何も言ってないですよぉ〜」
梨華ちゃんはご飯を作っていながらも、こちらの会話が気になるらしくチラチラ見ている。

そのあと3人でご飯を食べて、今日も愛ちゃんが洗い物をしている。
当然のごとく俺と梨華ちゃんはリビングで話しこんでいる。
よく考えたら食事前は愛ちゃん、食事後は梨華ちゃんと話をするのがなんか決まっちゃっている
2人ともかわいいし、両手に花ってやつだな。
「俊祐さん、明日大学午前中で終わるでしょ?ちょっとお買い物に付き合ってくれない?」
「いいよ」
「やったぁ!じゃあ12時半に門で待っててくれる?」
これってデートみたいなもんだよね?ちょっと嬉しいかも。
この後、その話を聞いた愛ちゃんが
「私もぉ〜行きたい〜」と言っていたけど、梨華ちゃんが
「ダメ。この前2人で出かけたでしょ。だから今度は私の番」
と言って、3人で行くのを拒んでた。
愛ちゃんはしぶしぶ納得してくれたが、ずっと不機嫌だった。

さらに夜も深くなって、部屋のベッドで寝てると…
コンコン
「どうぞ」
上の空でそういってドアに目を向けると、パジャマ姿の愛ちゃんが立っている
「ちょっといいですかぁ〜」
「いいけど」
俺は体を起こして、愛ちゃんのほうをむく。
愛ちゃんは俺が体を起こすのを見ると、俺の隣に腰かける。
「あのぉ〜、えっとぉ〜…」
「なに?」
「あのぉ〜、梨華さんのことどう思いますか?」
「梨華ちゃん?元気で楽しい子だなって思うけど」
「そうじゃなくてぇ〜…」
「そうじゃなくて?」
「もういいですぅ〜!後でわかることなんでぇ〜」
俺は愛ちゃんが何言ってるのかよくわからなかったが、
後でわかると言われたので、そんなに気にしないことにした。
「私もう寝ますぅ〜明日早いんでぇ〜」
「そうだね。おやすみ」
「おやすみなさ〜い〜!」
愛ちゃんは部屋に戻っていった。
さっきの会話はよくわからなかったが、
(愛ちゃんのことだから何かあったのだろう)
と思って、深い眠りにつく。

次の朝
朝食をすませ、梨華ちゃんと大学へ行き
講義をボーっと聞いていると、あっという間に午前中が終わった。
俺は約束通り門にいる。
梨華ちゃんはまだ来ない。
待っていると、美貴ちゃんが話しかけてきた。
なんか嫌な予感がする……

美貴ちゃんは隣に立ち、俺のほうを見ている。
それが何の事だかわからなかったのでとりあえず聞く。
ちなみに梨華ちゃんはまだ来てない。
「どうしたの?俺になんか用?」
「えっ、う〜ん、もしよかったら私とご飯食べに行かない?」
美貴ちゃんはなんか言いにくそうに言ってる。
いつもなら言いたい事ははっきり言う性格なのに…
「今日は先約があるんだ。
ほら、梨華ちゃんって昨日会っただろ?あの子と買い物行くんだよ。ゴメンな」
「いいよ。シュンがいそがしいって言うなら……」
「おう、悪いな。またヒマなときに誘ってくれ」
「うん、夜にメールするね」
「ああ、じゃあな」
美貴ちゃんはなんか寂しそうに帰っていった。

それから10分後
梨華ちゃんが走ってきた。
「ごめ〜ん。友達に合コンに誘われちゃって」
「ああ、いいよ。俺も美貴ちゃんに誘われたんだからおあいこだ」
「何言われてたの?」
「いや、ご飯食べないかって聞かれてだけ」
「ふーん、まあいいや。ここにいるのも落ち着かないから行こっか?」
「そうだな。行こう」

俺たちはお昼時でもあったため、ご飯を食べたあと、スーパーマーケットに行った。
梨華ちゃんはカートを押し、まるで主婦のように特売に目を光らせる。
俺は当然のごとく振り回され、結果的には荷物持ちになった。
よく考えたら俺はそのために呼ばれたのかもしれない。
「ここのスーパーとっても安いね〜。私ビックリしちゃったよ」
「そう?あんまり行かないからよく分からないんだけどな」
「まさか今まで外食ばかりだったの?ダメだよ。栄養のバランス考えなきゃ。
でも、今度から私が作ってあげる」
「いいの?梨華ちゃん疲れない?」
「私は大丈夫。俊祐さんの顔見るだけでふっとぶから」
「それって、まさか俺のこと……」
「えっ……」
梨華ちゃんは下を向き、それ以上喋らなかった。
やっぱりこんな話しなきゃよかったかな…
家についても梨華ちゃんは俺に話しをせずに、ソファーに座る。
俺はというと、愛ちゃんが帰ってきていて、高校の事とかを話していたので、話すタイミングがなかった。

夜になり、ここは梨華ちゃんの部屋の前。
何でここにいるのか。
なぜなら今日のことがなんか胸に詰まる思いだったから、なんとかしたかったのだ。
コンコン
「俊祐です。入っていい?」
「………いいよ」
ためらっているのだろうか、少し間をおいて言った。
おれが梨華ちゃんの部屋に入ると、彼女はヘッドの側に持たれて……泣いていた。
「どうしたの?」
少し涙声の梨華ちゃんが聞いてくる。
普通なら梨華ちゃんがどうしたのって言われる立場じゃないのか?
「うん…今日、途中から何も話してくれなかったよね?どうしたのかなぁって」
そう言うと、また下を向いてしまった。
しばらく沈黙が続く。
そして沈黙を破ったのは、梨華ちゃんのこの一言だった。
「俊祐さんの……だもん」
「えっ?」
「俊祐さんのせいだもん」
「……」
「俊祐さんが…美貴ちゃんと楽しそうに話しするから
もしかしたら俊祐さんは美貴ちゃんが好きなんじゃないかなぁ〜って思ったの。
でも、私に<もしかして俺のこと>って言うから…」
「……」
俺は何を言ったらいいのか分からない。
「……ゴメン」
そう言って俺は梨華ちゃんの部屋を後にした。
余計胸につかえる思いがしたが、あの場所にいられなかった自分がいる。
このまま部屋に戻り、ベッドに横になった。
どうすればいいんだろう?
そう考えながら俺は眠りについた。

ついに言っちゃった。
私って何でこんなに急いでるんだろう?
やっぱり美貴ちゃんの存在があるから?
私は俊祐さんの彼女の座をつかみたいから?
もう私訳わかんない。
そういえば…あの子も俊祐さんに気があるんじゃないかな?
そうなると…困ったなぁ〜
私は俊祐さんのことが大好きなのに…
まあ今日は考えてもしょうがない。明日また考えよう。
ポジティブ♪ポジティブ♪

その日の深夜、何時だかわからないが携帯がなった。
この音はメールの音だな。
<こんな時間にごめんね。今、シュンの家の前にいるの。
ちょっと話があるんだけど…今から出れる?
あと5分いるから、もしよかったら出てきて   美貴>
美貴ちゃん?どうしたんだろう?
まあいいかなと思ったので、外に出てもいいような格好に着替えて家の前に行く。
外に出ると、美貴ちゃんが左手に携帯を持って待っていた。
後ろに見覚えのない物があるのがちょっと気になるが…
「ごめんね。こんな時間に」
「ホントだよ。もう寝ようと思ったのにさ〜!で?話って?」
「うん、お願いがあるんだけど…」
「えーっ、めんどくさいのはイヤだよ」
「簡単だよ。シュンの家に住んでいい?」
「はぁ?」
いきなりで困った。まさかこんな展開になるとは……
「お願い。シュンと同じ大学になったんだから、幼なじみだし一緒に住んだほうがいいかな〜と思って。
だから住んでたマンション出てっちゃった。今住むとこないの」
「俺は別にかまわないんだけどさ…梨華ちゃんがなんていうか…」
「私が説得する」
俺は美貴ちゃんの真剣な目におされてしまったので、
「わかった。そのかわり梨華ちゃんにも許可もらってよ」
「うん!シュンなら絶対大丈夫だと思った」
「まあ入って。詳しいことは明日考えよう」
結局美貴ちゃんまで一緒に住むことになってしまった。
本当は一人で住むつもりだったのに……

とりあえず今日は多分梨華ちゃんも愛ちゃんも寝ちゃったと思うので
説得という訳にはいかず、今日は美貴ちゃんには俺の部屋で寝てもらうことに。
当然のごとく、俺はリビングのソファーで寝ることにした。

そして次の日。
今日は大学は休み。
でも、結局眠れなかったのでソファーに横になってボーッと考えていたら…
「うわ〜!あんれまあ〜!」
なんとそこには愛ちゃんが。
そういえば愛ちゃんの高校は登校日なんだっけ?
「シュンさん〜なんでぇ〜ここで寝てるんですかぁ〜?」
俺はどう答えたらいいのかわからなかったので、思わず。
「気分だよ。気分」と答えてしまった。
愛ちゃんは疑っていたが、急いでいたようであまり聞かなかった。
とりあえず、美貴ちゃんのこともあるので
「今日は早く帰ってきて。ちょっと話があるから」
といっておいた。
そう言うと満面の笑みで
「はいぃ〜わかりましたぁ〜」と言った。
そして朝ごはんを食べたあと
「ほいじゃ〜行ってきますぅ〜」と言って愛ちゃんは急いで家から出て行った。
愛ちゃんがいなくなったあと再び眠くなったので、ソファーで眠ることに。

眠りから覚めると、目の前には怒った顔の梨華ちゃんが飛び込んでくる。
「俊祐さん!なんでこの子をここに住ませるんですか!?」
いつもよりキンキンに響いた高い声が俺の耳に襲いかかってくる。
「シュン、ゴメン。喋っちゃった」
隣には、下を向いた美貴ちゃんが座っている。
「美貴ちゃん、説得したんじゃないの?」
「したんだけど……見事に断られて…」
「梨華ちゃん、美貴ちゃんをここにおいてほしいんだ。
梨華ちゃんはイヤかもしれないけど、俺にとっては大切な幼なじみなんだ。」
「そんなことを言われても…」
「おねがいします」
美貴ちゃんは頭を下げる。
「俺からも頼むよ」
「……………わかった」
「ホント?ありがとう!」
美貴ちゃんは梨華ちゃんに抱きつく。
その状況でも梨華ちゃんは冷静な顔で
「条件があるの」と言った。
「俊祐さんに恋愛感情を持たないで。約束して」
真剣に言ってきた。
「うん、わかった。約束するよ」
何でこんなことを言ってきたのかわからなかったが、こうして美貴ちゃんもここに住み始めた。
男1人に女3人。
何か間違いがなきゃいいけどね。

そのあと愛ちゃんも帰ってきて、美貴ちゃんが住むということを話した。
愛ちゃんは「いいよぉ〜」とあっさり。
美貴ちゃんは喜ぶよりも愛ちゃんが訛っていることにビックリしていたが、とりあえずこれでなんとかなった。

ある日、愛ちゃんとの約束で遊園地に遊びに行くことになった。
待ち合わせをしていて、まだ時間がある。
暇つぶしを兼ねて一人で町を歩いていた。
やることもなく、ゲーセンに行こうとしたら…

偶然なことにそこには梨華ちゃんが歩いてた。
でも、様子が違う。
よく見ると、隣には見たこともない男が!
しかも腕を組んで楽しそうに。
何でだかわからないが、俺は梨華ちゃんに嫉妬。
梨華ちゃんが知らない男と話しているだけで胸がギューって締め付けられる思い。
この瞬間、俺はわかった。
梨華ちゃんに恋心がある。好きなんだと。
でも、今梨華ちゃんには彼氏らしき奴がいる。
今言っても梨華ちゃんを困らすだけ……
「……さん〜………シュンさぁ〜ん〜」
気が付くと、愛ちゃんはいつの間にか俺の前にいた。
「ああ、愛ちゃん。いつ来てたの?」
「さっきからですよぉ〜シュンさん〜気づかないんですもん〜」
「あはは、ゴメンね。じゃあ、行こうか?」
「はいぃ〜♪」
こうして、なんか胸につかえる思いを持ちながらも愛ちゃんと遊園地に向かった。

遊園地から出てきた俺と愛ちゃんは手をつないで仲良く歩いている。
いったい、遊園地で何があったのか?

さかのぼること2時間前……

遊園地に入ると、愛ちゃんは俺の手を引いていろんな所を走り回っている。
俺もさっきの梨華ちゃんのことを忘れるがごとく、愛ちゃんといっぱい遊んだ。
そして今は観覧車の中。
観覧車の中は、当然2人きり。
愛ちゃんは俺の正面でじっと見つめている。何か言いたそうだ。

「愛ちゃんどうしたの?」
「あ、あのですねぇ〜、あのぉ〜」
もごもごした言い方だ。
「あのぉ〜……」
「何?」
「私ぃ〜好きな人がぁ〜できたんですぅ〜」
「へぇー。その人はどんな人?」
「あのぉ〜、やさしくてぇ〜、私よりぃ〜年上の人ですぅ〜」
ん?俺に似ている……まさか!
「愛ちゃん、違ったらゴメンね。その好きな人って…もしかしてさあ…」
「シュンさんですぅ〜私はぁ〜シュンさんがぁ〜好きなんですぅ〜!」
福井弁の訛りは消えてないが、明らかに真剣な顔だ。
確かに愛ちゃんはかわいいし、性格も悪くない。
一緒にいて楽しいのも事実だ。
でも、梨華ちゃんがどうしても忘れられない。
しかし、そのとき、俺の精神はおかしく(?)なっていた。
だから……

「愛ちゃん、俺も好きだよ」
「ホントですかぁ〜?」
「ああ、これからよろしくね」
本当は愛ちゃんより梨華ちゃんが好きだった。
でも、今梨華ちゃんに思いを打ち明けても、何もならない。
だから、俺は愛ちゃんに気持ちが移った。
いや、悪く言えば<乗り換えた>といったほうが正しい。
そのことを知らない愛ちゃんはとても嬉しそうに抱きついてきた。
「シュンさん〜大好きですぅ〜」
………これでいいんだ。これで………

その後も愛ちゃんと共にいろんなところで遊んで、今はここにいる。
遊園地を後にし、夕食の買い物をしてから家に帰ってきた。
「ただいまぁ〜」
「ただいま」
上機嫌な愛ちゃんが家のドアを開ける。
「おかえりなさい!」
梨華ちゃんが待っててくれた。
「俊祐さん、おかえりなさい」
しかし、俺は梨華ちゃんに目もくれず
「愛ちゃん、俺の部屋に行こう」
と、言って梨華ちゃんを避ける。
「はいぃ〜」
愛ちゃんは別に気にしなかったのか、躊躇なく進んでいった。
俺と愛ちゃんは部屋に入ると、誰もいないリビングで梨華ちゃんが…
「俊祐さんひどいよ。私、何かした?」
と言って、そのまま泣き崩れてしまった。

「ただいま〜」
美貴ちゃんが元気よく帰ってくる。
が、目の前の光景を見て美貴はその元気をなくした。
梨華ちゃんが泣いている。
「どうしたの?」
「美貴ちゃん、おかえり…ヒック……ぐすん」
「梨華ちゃん!」
「うえーん!」
梨華ちゃんは美貴ちゃんに抱きつき、さらに泣き始めた。
美貴ちゃんはどうすることもできないので、ただ梨華ちゃんを抱きしめていた。

しばらく経って、美貴ちゃんは梨華ちゃんに話を聞くことに。
「どうしたの?」
「俊祐さんの事なんだけど…」
「シュンの?」
「うん、今日俊祐さん帰ってきても、私と口を聴いてくれないの」
「えっ!なにかあったのかな〜?
とにかく今日はこのまま寝たほうがいいよ」
「うん……」

その頃の俺の部屋

「シュンさ〜ん〜」
愛ちゃんは甘えてきた。
「ん?なあに?」
「なんでもないですぅ〜♪」
そう言って俺に抱きついてくる。
「愛ちゃん…好きだよ」
俺は耳元でささやいた。
「なんかぁ〜照れますねぇ〜」
でも、とっても嬉しそうだ。

次の日
今日は俺達の大学と愛ちゃんの高校は休み。
そういうことで、愛ちゃんとデートに行こうと部屋に行こうとすると…
「あっ……」
偶然梨華ちゃんと会ってしまった。
まあ一緒に住んでるから偶然とはいえないけど…
「俊祐さ…」
「…」
俺は何事もなかったように足を進める。
「………」
梨華ちゃんは何もできずにただ立ち尽くしていた。
目には涙があふれていた。

コンコン
「はぁ〜い〜」
「愛ちゃん♪」
「あっ!シュンさんですねぇ〜♪どうぞぉ〜」
ガチャ
「おはよう」
「おはようございますぅ〜」
「今日学校休みでしょ?どっか遊びに行かない?」
「いいですよぉ〜シュンさんのためならぁ〜どこでもいきますよぉ〜」
「じゃあどこに行く?」
「後で決めましょうよぉ〜」
「そうだね。じゃあ1時間後に行こうか?」
「はいぃ〜」
「それじゃあね」
そう言って俺は愛ちゃんの部屋を後にし、自分の部屋に向かった。

部屋に戻るとき、やっぱり梨華ちゃんの部屋を通るときがあった。
そのときも梨華ちゃんは部屋の前で泣いたまま。
俺は何もないように通り過ぎる。
そして部屋に戻ると……そこには美貴ちゃんが部屋の真ん中で立っていた。
「ちょっと話があるんだけど」
怒っているが、声に迫力がないので怖くはない。
「なんだよ。今から出かける準備するんだけど」
「なに?昨日からの梨華ちゃんに対する行動は!?」
「はぁ?別に普通だけど」
「嘘つかないでよ。無視したんだって?梨華ちゃん泣いてるの気づかない?」
「その泣いてることも嘘じゃないのか?」
「何で?」
「あいつ昨日男と歩いてたよ。しかも腕組んで」
「だから梨華ちゃんを無視してるの?」
「そうだよ」
俺はもう開き直り気味に言った。

すると美貴ちゃんは驚いた顔をしたが、すぐに言い返してきた。
「その話なんだけど、その人は梨華ちゃんの幼なじみで
私達みたいに高校は別だったんだけど、偶然大学が一緒だったんだって」
「じゃあなんで……」
「話をちゃんと聞きなさい。
それでその人がなんか合コンで彼女がいるっていうことを言っちゃったんだって
彼女のいないその人は梨華ちゃんに相談したら、偽装で彼女になったんだって」
美貴ちゃんは延々と話している。
俺は自分の間違いに気づいた。
「そんなことが…」
「そう、ここからは私の推測なんだけど
梨華ちゃんはシュンが好きなんだよ。
だからシュンが無視したときに泣いてたんだと思う」
俺はなんて馬鹿なことをしちゃったんだろう……

「ねえ〜シュンさ〜ん〜」
ここは駅前の喫茶店。
あの後俺は自分の間違いに気づいたが、愛ちゃんとは恋人同士なので
断るわけにもいかず、そのまま出かけた。
「ん?どうかした?」
「どうかしたぁ〜じゃないですよぉ〜!さっきからどこ向いているんですかぁ〜?」
「えっ?俺は愛ちゃんを見てるんだけどな〜」
愛ちゃんは‘もういい’みたいな顔になってそっぽを向いてしまった。
しばらく気まずい空気になってしまったが
俺はその空気に気づかず、ただ何も考えずにその場をやり過ごした。

結局もうこのまま帰ろうということになり、俺達は家に帰った。
家に入ると愛ちゃんは部屋に閉じこもって出てこない。
そこに美貴ちゃんが
「帰るの早いね」
「ああ、なんか話が進まなくてな」
「梨華ちゃんのことで?
シュンさあ…そのことを考えるのもいいけど、愛ちゃんのこと考えてるの?」
「うん…」
「中途半端だねぇ〜!あんたはいつもそう!私のときも……」
その言葉で俺達は黙る。
4人の歯車は確かに狂っていた。
そう、俺が梨華ちゃんを無視したときから……

俺達4人は相変わらずの学生生活を満喫している。
梨華ちゃんは大学のアイドルにまで顔を広めて、男からのラブコールが絶えないらしい。
彼氏がいそうな感じだが「私にあわないの…」といって断っている。
美貴ちゃんも梨華ちゃんには及ばないが、人気はあるそうだ。
愛ちゃんは高校の文化祭で勝手にエントリーされた美人コンテストでグランプリをとって以来、クラスの男子に大人気だそうだ。
俺はというと………はっきり言って3人とは180度違った生活をしている。
毎日バイトに明け暮れ、家に帰ったら眠りに就く……こんな日が続く毎日。
肝心の4人の関係だが、普通の友達として一緒に住んでいるという感じ。
俺としてはもっと悪くなると思っていたが、梨華ちゃんは俺に話しかけてくれる。
愛ちゃんもいろんなことの相談に来たこともある。
まあとりあえず一安心だ。

そんな秋も深まり、もうすぐ冬になりそうな季節……
俺はサークルの合コンに久しぶりに呼び出された。
ちなみに俺のサークルは美貴ちゃんと同じバレーボールサークルだ。
(とは言っても、ただ楽しく試合をするだけだけど…)

「かんぱ〜い!」
どうやら今日の合コンはサークルで飲むってことらしい。
バレーボールサークルは男女一緒にやっていて、比率はだいたい半分くらいだ。
だから合コンといったのだろう。
(合コンじゃないよな〜)
今の席は男と女が向かい合うという序盤によくある座り方。
すると、うちの部長が
「席替えタ〜イム!」と叫んだ。
その言葉が終わるとだんだん俺の元に人が……

もちろん来るわけなかった。
いつしか俺は窓際族のように端っこに追い込まれる。
この状況はどうしようもないので、一人で酒を飲んでいた。
(うひゃ〜!寂しい……)
10分後
状況は変わらず、部長を中心としてバカみたいに盛り上がっている。
俺はやっぱり隅で飲んでいると…
「シュン」
美貴ちゃんが話しかけてくる。
「誰もいないじゃない」
「仕方ないだろ。何にもしてないし」
「しょうがないなぁ〜かわいい美貴ちゃんが隣に座ってあげる」
そう言うと俺の隣に座り、腕を俺の腕に絡めてくる。
周りの視線が一気に集まりだした。
「おい!やめろって」
「いいじゃない〜一緒に住んでるんだし〜」
酒に酔っているらしい。ちなみに美貴ちゃんは飲むと甘え上戸になる。
普段は大人っぽいので、余計かわいく感じる

酔った美貴ちゃんはもう誰にも止められない。
「藤本、やめなよ。矢口が困ってるよ」
「いいじゃないですかぁ〜」
今度は俺の胸に自分の頭を置いてきた。
「ちょっと!酔ってるぞお前」
「酔ってないよぉ〜!シュン何言ってるの〜?」
普段の声はどこへやら…声を動物にたとえると猫みたい。
そこがまたかわいいんだけど……

そして今度は抱きついてきた
「シュンちゃ〜ん!好きだよ〜大好きぃ〜」
「「「「「えっ!?」」」」」
皆の視線が一気に集まる。しかも空気が固まる。
「私、ずっと好きだったんだよ!
小学校のときからずっとずっと好きだったんだよ!」
笑顔でとっても大変なことを言ってしまった。
これが酒の威力なのか…

「お前、自分で何言ってるのかわかってるの?」
「うん♪シュンのことが好きぃ〜♪」
多分酒だけじゃないだろう。顔が真っ赤だ。
その時部長が
「矢口、藤本連れて帰ったほうがいいよ。ちょっとおかしくなってる」
「そうっすね。じゃあ皆さん、お先に帰ります」
俺は席を立ち、みんなに軽く会釈する。
「美貴!帰るよ。お前酔ってるんだし」
美貴の腕を引っ張る。
「は〜い♪皆さんお疲れさまでした〜」
相変わらず目がすわっているが、みんなに挨拶をして
俺達は店を出て、駅の方角へ向かう。

俺たちがいなくなった後、部長があることに気づいた。
「あっ!」
「どうしたの?」
隣にいた女の子が反応する。
「ん?いや、なんでもない」
一瞬、部長の顔がにかっと笑った。

「(どうしよう…)」
俺は駅前で困っていた。
なぜなら、終電が終わってしまったのだ。
部長は早く帰れって言ってたのに、もうこんな時間になっていたのか…
実はさっき部長が「あっ!」と言ったのはこのことだったのだ。
「シュンちゃ〜ん♪どうするの〜?」
さらにここには酔っ払いが1人…
「どうしようか…」
「あ〜!ここにとまるところがある〜♪」
美貴が指さした先は……ホテル!?
「シュン〜入ろうよぉ〜私は大丈夫だよ♪」
「いいの?」
「うん♪」
と、いうわけで俺達はホテルに入る。

ホテルに入ると、結構豪勢な造りだった。
早速チェックインといきたいが、ここでひとつのトラブルが…
「え〜!こんなにかかるんですか?」
値段は言えないが、ちょっと2人分には足りない。
どうしようってしばらく考えていると
「ねえねえ〜」隣にいた酔っ払いの美貴ちゃんが肩をたたく。
「一部屋分なら足りるでしょ〜♪
さっきも言ったけど私は大丈夫だからさ〜♪」
「そうですよ。かわいい彼女さんが言ってるんですから、一部屋でいいんじゃないですか?」
いつの間にやら受付の人も俺を説得している。
「う〜ん、じゃあその部屋で」
「ありがとうございます」
受付の人は俺に簡単な書類を書かせた。
「それではお部屋にご案内します」
別の従業員が話しかけてくる。
「美貴、行くよ」

しかし、なぜか顔を赤くして下を向いている。
「どうした?」
「……彼女だって、キャ〜」
顔を両手で隠す。
そのしぐさもかわいいんだけどね。
「どうでもいいじゃんか」
俺は先にすたすた行こうとすると、美貴ちゃんは腕を組んで甘えてくる。
「シュン〜もう歩けない〜」
「もう!俺にどうしてもらいたいんだよ!?」
「連れてって♪」
そういうと俺に耳打ちする。
「(お姫様抱っこで)」
「はあ?」
「やってよ〜ねえ〜」
「しょうがねえなあ〜」
これ以上従業員さんに迷惑はかけられないので、素直に従うことにした。

俺がお姫様抱っこで美貴ちゃんを抱えている間
周りの目がなんか気になった。
それでも美貴ちゃんは酔った勢いも後押ししたのか、しっかりと俺にしがみついてた。
そして部屋に着いた。
「それではごゆっくり」
従業員は俺に鍵を渡して、どこかに行ってしまった。

部屋に入ると、美貴ちゃんはふかふかのベッドにダイビング。
俺はな〜んかその仕草にドキドキしながら、部屋の窓側にいすを持っていってぼ〜っとしていた。
このまま時間が過ぎる。
「私お風呂入ってくるね」
そう言って美貴ちゃんは入っていった。

「こら〜!起きろ〜!」
気がつくと俺の目の前で美貴ちゃんが声をかけている。
どうやら眠ってしまったようだ。
「ん?なんだよ」
まだ寝ぼけている俺は目をこすりながら話しかけた。
「早くお風呂入ってきて、話しあるから」
「今話せばいいんじゃないか?」
「あがった後のほうが都合がいいの。早く入ってきてよ!」
「なんだよ、それ」
「いいから」
「へいへい」
俺はソファーから立ち上がり、風呂に入りに行く。

風呂の中でさっきの言動のことを考えていた。
「(何だ?風呂に入らないといけない話?
訳がわからない。まあひとつだけ当てはまるのがあるのだが…
そんなわけないよな…多分…)」
そんなことを考えてると、風呂のドアをたたく音が聞こえる。
「こら〜!はやくしろ〜!」
美貴ちゃんが怒った声で言ってくる。
「わかったよ!とりあえずたたくな!もうちょっとであがるから」
「は〜い♪」
どうやら風呂場を出て行ったようだ。
「(なぜ急かす?俺にはわからない…)」
これ以上考えるとのぼせそうなので、もう出ることにした。

風呂から上がった後、
俺は服に着替えてリビングのソファーに座ると
ほぼ同時にベランダで外を眺めてた美貴ちゃんが入ってきてソファーに座る。
顔はまだ赤い感じがする。
「酔い覚めた?」
「うん♪」
まだテンションが高いので、どうやらまだ覚めてないらしい…
「んで?話って何?」
「うん、あのね。今日私と一緒に寝てほしいの…」
「はあ?」
「だからぁ〜かわいい美貴ちゃんと一緒に寝てってこと」
「自分で言うか?かわいい美貴ちゃんって」
「いいの!で、寝てくれるの?」
「断る」
「なんで?子供の頃は一緒に寝たりしたじゃん
そのときはシュンが私に寝ようよって言ってたのに〜」

この後、信じられない言葉を耳にすることになる

「何でそんなに変わっちゃったの?
私、子供のときシュンが大好きだったんだよ!
いつもやさしくて、楽しく遊んでたときのシュンが大好きだった」
いつの間にか美貴ちゃんは泣きそうな目になっている。
「お前まだ酔ってるだろ?」
「酔ってないよ!最近はいつもそう。
なんかまじめな話になると、そう言ってはぐらかす
だから今のシュンはキライ!さっきのお店で好きって言ったのは昔のシュンの事」
確かに俺は、まじめな話になると流れる空気がイヤでよくはぐらかしていた。
でも、それは梨華ちゃんのことがあるから…
「ねえ、戻ってよ!あのときのシュンに戻ってよ!」
美貴ちゃんは俺の肩を手をついて、揺さぶる。