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我犬。 ◆N0E.Nono 投稿日:2002/09/11(水) 10:55

【帰り道】

「ごめ〜ん。ちょっと遅くなっちゃった。」

なつみは濡れた髪のまま走ってやってきた。
見るからに湯上りでほんのり桜色した顔
そしてシャンプーの香り

「あんまり待ってないよ。隣までなつみの声聞こえてきてたから
 オレもゆっくりしてた。」

マンションに風呂がないわけでもない。
でも、こうやってたまに2人で近所の銭湯に行く。

「あー、隣まで聞こえちゃってた?
 なんかねぇ、隣に座ったおばあちゃんがねぇ。色々話してくれてさ」

なつみは身振り手振りでその初対面の婆さんの話をしている。
その楽しげな表情とキラキラと光るまなざし、そして屈託ない笑い声。
話が一通り終わると突然─

「ねぇ、今何時?11時前?」

オレは携帯電話を開いての時計を見る。
10:58

「あと2分で11時だな。」

なつみは慌てて走り出した。
オレは訳もわからず追いかけるように着いて行く。
とは言っても距離として20mぐらい。
自動販売機の前でなつみは止まり小銭入れからコインを取り出すと
一斉に光るボタンの中から上の段にある右から2番目のボタンを押す。

─ガタン

「セーフ。飲むっしょ?」

ガチャガチャと落ちてくるおつりをポケットにしまうと
オレの顔に缶ビールを押し付けてきた。
風呂上り、さらに短い距離だけど走り、そしてまだ残る熱帯夜
この条件での冷えた缶ビールは気持ちよかった。

プシュ!

「はい。」

「さんきゅう」

オレは味わう事もなく一気に喉に流し込んだ。
喉から食道にかけて冷たい刺激が通り過ぎる。

「本当に美味しそうに飲むね。」

オレは飲みかけのビールを手渡した。
オレと缶ビールを見比べるようにして
なつみは上品に缶に口をつけて一口飲んだ。

「にが・・・」

笑いながらオレ達は同じ部屋に帰る。
少し汗ばんだ腕を絡めながら─