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我犬。 ◆HhN0E.Nono 投稿日:2002/10/11(金) 10:15

【誰かのために】

「あぁ〜まったくどいつもこいつも。なんでやねん。」

「どうしたの裕ちゃん?」

文句を言いながら入った楽屋には保田が居た。
そして折りたたみの安っぽいイスに座る。

「おう、ちょっと圭坊、今夜付き合えや。
 飲みに行くぞ!」

私の言葉に答えないで後ろに廻り込んで肩を揉む。
思わずウットリ。

「あぁ〜気持ちエエ」

「どうしたの?何があったのよ。」

ゆっくり肩を揉みながら尋ねてくる。
さすがに自分で言うのもなんだけど私の扱いに慣れている。

「そうそう、さっきなご機嫌なヤグピーが居たから、晩メシ誘ったんよ。
 そしたら断わりやがってさぁ、それも訳も言わないでさぁ。
 なっちが笑ってたから聞いたんだよ。そしたら何て言ったと思う?」

保田は肩を揉みながら首を横に振った。
話を聞いているのか聞いているフリをしているのか
わからないがそのまま続けた。

「なっちが言うには、なんとオレのヤグピーに男が出来て
 一緒に暮らしてるって!
 もう泣きたくなったわ。
 そんで詳しくその話を聞こうと思ってなっちを誘ったら
 なんと!なっちも同棲始めたからダメ!なんて言いやがってよぉ」

保田の手は肩から腕へ移動していた。

「なぁ、圭坊聞いてんか?」

「あぁ〜しょうがないんじゃない。
 裕ちゃんも早く良い人見つけなよ。」

「わかってるんやけどなあ。
 それにしても、圭坊オマエこんなにマッサージ上手かったんか?」

「今、ちょっとマッサージに凝っててねぇ。
 いろいろ勉強してるんだ。」

その手つきはとても素人のマッサージとは思えない。

「最近どっか痛い所ない?」

「そや最近、頭痛がすんねん。

私の言葉に保田は頷きながら右手を取った。

「えっと、確か頭痛には温溜(おんりゅう)と下廉(げれん)だったよな。」

そう言って私の右腕を指で確かめるように触っていく。
そしてヒジを曲げて押されるとちょっと痛いところを軽く押した。

「えっとここが曲池(きょくち)でしょ。」

そして今度は手を握って親指の付け根を押す。
ここもなんか痛い感じ。

「それでここが陽谿(ようけい)でしょ。だから温溜(おんりゅう)は
陽谿(ようけい)から曲池(きょくち)に向かって5寸の位置だから
 あ。ここか。」

そう言いいながら指でグリグリと刺激する。

「あたたたた、けどちょっと気持ち良いかも。」

保田はニコッと笑うと

「今度は下廉(げれん)ね。
 えっと下廉(げれん)は曲池から陽谿に向い下4寸で、ここの筋の間だったよな。」

そう言うとまたまた痛気持ち良い場所をグリグリと押した。
保田は真剣な表情でツボを押している。

「なぁ、えらく本格的やなぁ。
 ホンマ、圭坊は凝りしょうやもんな。
 勉強家やなぁ
でも、すぐに飽きるんやろ?」

保田は笑った。
楽屋でメイク用の大きな鏡にその姿が映る。

「今回は飽きないよ。」

「何で言い切れる?」

「ないしょ。」

「なんやねん。 あ!!!!!!
 オマエ!まさか男、出来たんか!」

「ふふふっ
 お〜しまい。
 それじゃ、裕ちゃんお先に。
 私これから勉強しなくちゃいけないから〜」

「・・・」

─バタン

ドアが閉じられた。
そして私は一人取り残された。

「アカン、胃が痛くなってきた。
 おい!ちょっと保田!!圭ちゃ〜ん〜今度は胃が痛いよぉ〜。
 1人にしないでやぁ〜」