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HEROの名無し 投稿日:2002/11/11(月) 00:44

人気(ひとけ)のない店内に、グラスの中の氷がウィスキーと混ざり合い、時間が経つと音を立てて割れた。

私はこの店に昔から通っている。いわゆる常連。
もともとは彼が一人で通ってた店。
付き合い始めた頃に、私も連れてきてもらい通うようになった。

でも、今その彼はいない。
私を置いて、海外へ行ってしまった。

一緒に行きたかった。
今私が持っているもの全てを捨てでも。

でも彼は、連れていってくれなかった。

「必ず迎えに戻ってくる。だから、信じて待ってて」

…そう言い残し、彼は行ってしまった。

なぜ、私はついて行かなかったんだろう…
無理にでも、一緒に行きたかったはずなのに…

…いや、本当はわかっている

彼を信じているから…
大好きな彼だから…
待ってみようと思った。

でも…

(…もう、疲れたわ…)

それが本音だった。
ウィスキーを一口飲み、深いため息を吐く。

(アカンアカン、どんどん鬱になってきた。こうなったらとことん飲もか!)

その後、勢いに任せてウィスキーを飲んでいった。

「……う…ん…?」

顔に冷たい風を感じた。

(ここ…は?…ああ…そっか、私飲み潰れたんやな…)

思考をゆっくり動かし、自分がどうなったかを理解した。
でも、この冷たい風はなんなのか?

(外におるんかな?でも私…店で飲んでたはず…)

ふと気づいた。

(誰かの…背中?)

ゆっくり顔を上げ見てみると、背中がそこにあった。

「起きたか?…ええ歳してまったく、あんなところで寝てたら風邪引くやろ」

…見なれた背中…
…聞きなれた声…
…暖かい体温…

今までの辛かった日々を思い出し、こう言った。

「…あほ…全部あんたのせいやからな…」

辛かった思いを全てを包み込んでくれる彼のぬくもり…。
嬉しい涙が、頬を伝って彼の背中に溶け込んでいった。