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ピーラー 投稿日:2003/06/29(日) 00:37
桜の花は散り、葉が青々と茂る季節、独特のさわやかな風が吹き込み、
あらゆるものが和んでいくような気がする。〜昼休み、校舎の屋上〜
高橋「私…杉本君のことが好きです!
だから…お願いですっ、私と付き合ってくださいっ!!」そよ風が高橋の髪と優しく遊び、さわやかな匂いと共に通り抜けていった。
杉本「……ごめん。俺、、前から好きな奴がいるんだ…」
それから二週間が経ち・・・
石井「お前最近、調子悪いな。」
杉本「あぁ。ストレートが定まらないし、スライダーも切れねぇ。」
石井「ちょっと疲れ気味だな。」
既に中間テスト一週間前となっていて、
本来なら部活停止なのだが、野球部だけは強行してやっている。石井「2,3日投げ込みやめて、守備練に切り替えたらいいかな?気分も変わるかも。」
杉本「そうだな。」
杉本と石井のバッテリーは、他と少しメニューが違う。
走り込みが大きく占めているため、二人の部活はなかなか終わらない。
そして例によって最終的に部室には二人しか残っていなかった。石井「はぁ…なんか楽しいことして遊びてぇなぁ。」
杉本「あさ美ちゃんとどっか行けばいいじゃんよぉ。」
紺野は石井の一つ年下の彼女である。
石井「行きたいんだけどヒマがない…」
杉本「はは、確かに。」
石井「ま、でも俺たちは、上の代よりも強いしそれに仲いいからさ、
結構いいとこまで行けそうだから頑張らないとな。」杉本「しんどいけどそれなりに楽しいからな、、、
もしかしたら、20年ぶりの甲子園が……!!」二人の気分は盛り上がった。
杉本「ケン(本名、石井 謙次郎)は彼女がいていいよなぁ、うらやましいよ。」
石井「お前だってできる可能性は十分にあったんだぞっ!
それをフッてしまうとは………」
杉本「なに!?知ってるのか!?」石井「情報通だからな。俺はお前のことは何でも知ってるよ!(はぁと)」
杉本「あたたた……、もしかしてみんなに知られてる?」
石井「知ってる奴は知ってるよ。」
杉本はひどく頭を抱えた。
石井「高橋は同学年でも1,2を争うくらい可愛い奴だぞ、何でフるんだよ!?」
杉本「だって俺は別にどうも思ってなかったんだからよぉ。」
石井「はぁ?!それは付き合ってみてそれからまた考えればいいじゃねぇかよ!
本当にいい奴かもしれないし。」杉本「そりゃそうだけどさ…」
石井「それにお前は何回女の子をフってんだよ?松浦もフったし、
一つ下の辻ちゃんだってフっただろ!!付き合いもしねぇで!!
まったく、一回付き合ってみてから判断しろよっ!!」杉本「まぁまぁ、そう熱くならずに。」
その言葉に石井はさらに熱くなってしまった。
石井「ともかく、お前は何で誰とも付き合わないんだ?
せっかく機会があるのにそれを自分から潰しておいて、
それでいて『彼女が欲しい』なんて・・・おかしすぎるぞ!?」杉本「う〜ん、そうだよなぁ…」
石井「具体的に誰がいいんだ!?………あっ!お前、もしかして…好きな奴がいるな!!」
杉本「う、う〜ん、どうだろうなぁ…(汗)」
石井「はい、その顔は絶対にいるね。言っとくけど俺に隠し事は出来ないよ。
おれはキャッチャーだからな、それにお前との付き合いも長いし!」杉本は石井に全て見透かされていると悟った。
杉本「はぁ……ケンにはかなわないな。ま、ケンになら言ってもいいかな。」
石井は軽く頷き、
石井「……で、誰?」杉本「え〜とね、…あさ美ちゃん。」
石井「はぁ?!?!うそっ!?」
杉本「うん、うそ。」
石井は杉本を絞めた。
杉本「カホッ、ケホッ!まったく・・・、
あさ美ちゃんのこととなると、冗談通じねぇんだから。」石井「で!誰!(怒)」
石井の視線は鋭かった。
杉本「多分言ってもわからないと思うけど…
一つ下の学年に、小川って娘がいるんだけどさ。」石井「は?おがわ?」
杉本「知らない?」
石井「いや、知ってるよ、
あさ美と仲がいいらしいからな。小川が好きなのか!?でも、何故、小川?」杉本「何故って……そんなの表現しづらいぞ。」
石井「でもさ、お前には悪いんだけどさ・・・小川ってあんまり冴えない気がするけどな。
高橋とか、下の学年だと、加護ちゃんとかの方が数段可愛いと思うけど。」杉本「小川だって可愛いよっ!!」
石井「そう、か?」
杉本「あぁそうなんだよ!!別にいいだろ!!それに他にも色々とあるんだよ!!」
石井「まぁまぁ、熱くなるなよ。」
興奮度、逆転・・・・・・・・
石井「でも、好きな娘が決まってるんだったら何故告白しない?
別に小川だって、お前のこと知らないわけじゃないんだろ?」杉本「よく練習見に来てるよ。」
石井「おっ、さすが!気になってるな!」
杉本「茶化すなよっ。まぁ本当のことを言うと、俺に勇気が無いんだ…慣れてないし。」
石井「ばかだなぁ、んなことに慣れてる奴なんてほとんどいねぇよ。
慣れてる奴なんて、男好きか女好きのどっちかだ。」杉本「ともかく勇気が持てないんだよ。」
石井「う〜ん、お前はマウンド上だと絶対ひるまないんだけどなぁ…
なんでそんなお前が、告白する勇気くらい持てないんだろ??」杉本にとって耳の痛む言葉であった。
石井「俺だって勇気を持ってあさ美に告白したんだぞ。一目見たとたん
『オレ、もう、だめっ…』って感じでな、すぐに話しかけて仲良くなって、
それで俺が帰り道にある公園で告白したってわけだ!そんでな、その時
あさ美が言ってたんだけど、俺に話しかけてもらう前から
ずっと俺のことが好きだったんだってさ!!これぞ相思相愛!」杉本「ケンのノロケは聞いてないんだよ…」
石井は少し厭らしい顔つきで笑っていた。
部室で話は盛り上がっていた。
石井「小川と話したことあるのか?」杉本「あぁ、それなりにあるな。でも最近、話してないんだ…」
石井「どんな感触なんだ?」
杉本「感触って言われても…まぁ悪くないんじゃないかな。
廊下で会った時とかも挨拶してくれるし。でもそれだけなんだよなぁ…」
石井「なんだ、じゃあもう大丈夫じゃん。」杉本「でも告白して失敗したら、そんな関係でいられなくなるし…」
石井「でもこのままだったら、今のまま変化なく『終了』ってことだ。」
杉本「ハァ…、どうしよう……」石井「お前が小川がイイって言うなら、俺がなんか手伝うけど。」
杉本「えっ!?本当か!」
石井「あぁ、あさ美に頼んで何とかしてみようと思うけど、
でも最終的に告白するのはお前だからな!」杉本「う〜ん……」
石井「男だろっ!」杉本「……よし、わかった。よろしく頼むよ!」
石井「うん、それでいい。」
そして話はさらに盛り上がる。
杉本「小川と初めて会ったのは、、、そうだなぁ、今からちょうど一年くらい前かなぁ。」
石井は聞き役に回っていた。
杉本「部活でロードワークから戻ってくる時に、校門のところで小川と激突しちゃったんだよ。
それで、小川だけ倒れて手首ひねっちゃってさ、それで保健室に連れて行ったのが縁で、
その日一緒に帰ったんだ。」石井「ふ〜ん。」
杉本「それから結構仲良くなってな、その頃からかな、小川のことを好きになり始めたのは。」
外はすっかり暗くなり、静かな夜景へと変化していた。
杉本「部活終わって外の水道で水かぶってたら、『これ使って下さいっ!』って
タオル渡してくれたこともあったし、俺が弁当持ってこなくてしかも金も
持ってなかった時にバッタリ会ってさ、弁当食わせてもらった事もあったし・・・
あれだぜ、その弁当、いつも本人が作ってて、これが結構ウマいんだ!」石井「へぇ。」
杉本「それに、ユニホームのボタンがとれて、それを直してもらったこともあったなぁ。」
石井「あのさ、そんなに仲がいいんだったら別に手助けする必要なんか無いんじゃない?」
杉本「それが…ここ最近会っても挨拶だけして何も話してこないし、何か俺を避けてる時も
あるみたいなんだよね。遠くで視線が合った瞬間に目を反らされて
どっか行っちゃった時もあるし……、単なる俺の被害妄想かな?」
石井「さぁ、どうだろうな…
まぁ、どう転ぶもお前次第ってことだ。」こうして、一連の話は一区切りがついた。そして…
コンコン、、、、ガチャ、
紺野「ケンちゃん、帰ろっ!」いつものように、ギリギリまで教室で粘って勉強して、部活の終わりを待っていたのだった。
石井「おうっ、帰ろうか。」杉本「・・・・・・やっぱり彼女はいいよなぁ。」
紺野「ん?杉本先輩、どうしたんですか?」
石井「あさ美、あのな、こいつなぁ〜」
杉本「わ〜俺の前で言うな!恥ずかしいだろっ!」
石井「小川のことがなぁ〜!」
杉本「わぁぁ〜!!!」
紺野「ん?」その後、途中まで3人仲良く帰った。
そして途中から2対1になったのは言うまでもない。そして、テスト最終日……
さすがにテスト日程中は部活禁止にさせられたが、また今日から解禁するのであった。キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン。。。。
紺野「ケンちゃん、どうだった?できた?」
石井「できねぇよ。ま、でも赤じゃないからいいや。」
紺野「あはは、今度勉強教えてあげるね!(はぁと)」
石井「あぁ、頼むよっ!!」
そう言いながら石井は紺野のおでこをコツンとこづいた。
石井「そう言えば、俺は健夫(本名、杉本 健夫)に、屋上に行くように
言っただけで良かったの?上手くいくのか?」紺野「絶対に大丈夫だって!問題ないよっ!」
石井「なんでわかる?」
紺野「だってね、まこっちゃんたらね、 !」
石井「へ?なんだ、そうなんだ。」
紺野「ね!」
夕方………
中間テスト最終日の夕方ともなると、校舎には全くと言っていい程、人は残っていなかった。しかしそんな中、杉本は部活を終え、一人校舎の屋上へと向かっていた。
・・・かつて告白された場所・・・
そして、そこには、もう一人……カツ、カツ、カツ、、、、 ガチャ。 その音に振り返る。
小川「あ、あれ?杉本先輩……」
杉本「…やぁ、、、小川さん。」突然の出来事に、小川は戸惑っていた。
小川「先輩…どうしてここに?」杉本「あ、いや…それが…ね。」
場面は整っているにも関わらず、勇気を出せないでいる杉本がここにいた。杉本「小川さんこそ、どうしてここに?」
小川「私は、あさ美ちゃんとここで待ち合わせをしてるんです。
…何か話があるみたいなんですよ。」そう言いながら、杉本に微笑みかけた。
杉本「そうなんだ。」
小川「……先輩は?」杉本「あ、別に、その…ま、いいじゃん」
小川「??」
杉本「……っ、夕日を眺めに来たんだよ。」杉本は自分の「小ささ」を悔いた。
屋上から眺める夕方の風景。鮮やかな夕日が、小さくなった街を優しく包み込む。
その風景を眼前にして、二人は無言のまま、立ち尽くしていた。
小川「………」
杉本「…………」吹き抜ける風の音のみが鳴っていた。
・・・最終的に告白するのはお前だからな・・・
ふと杉本は思い出す。
夕焼けが美しい。
小川「あ〜あ、あさ美ちゃん遅いなぁ〜」
杉本「…実は俺が、、、小川さんにここへ来てもらうように頼んだんだ。」
小川「…えっ?」
二人は向き合う。
杉本「俺、小川さんに伝えたいことがあるんだ。」
小川「先輩が……私に…」
困惑しながらも少し状況がわかってきたのだろうか、
小川は顔をこわばらせ、うつむいた。杉本「俺…小川さんに……いや、小川さんが、
小川さんのことが………、いや、その………」
小川「………」杉本「なんていうか…」
・・・どう転ぶもお前次第ってことだ・・・
杉本「俺、前から小川さんのことが好きだった。
だから………俺と付き合ってくれっ!」美しい、夕焼け。
小川は肩を震わせていた。
小川「私なんかで……本当にいいんですか、先輩…」
杉本「なんかって…小川さんが一番好きだ。」
小川は杉本の胸の中に飛び込んでいた。
そして、、、泣いた。
小川「先輩…ひどいよ……先輩、有名になって、手が届かなくて、
どんどん遠くへ離れて行っちゃうんだもん…
私なんか………全然近くに居れないんだもん…」杉本「そんなことは、ないよ。」
杉本の胸の中で小川は首をふった。
小川「私も…前から先輩のことが大好きでした……
でも、先輩を好きだって言う人がたくさんいて、いつも先輩、
その人たちに囲まれてるから…きっと先輩には綺麗な彼女がいて…
だから私は、先輩を遠くから見て憧れることしか出来ないんだって…
諦めて、ずっと自分に言い聞かせてたのに……」杉本「そんな…」
小川「私なんか…もう……」涙が止まらない小川を、根本は強く抱きしめていた。
校舎の上に、行き違いを埋められた人が二人、、、
そして、夕日が、美しい。石井「どうなってるかなぁ、あいつ。」
紺野「大丈夫だって!」
この二人は部活帰りに鯛焼きを買って、二人にとって「特別な」公園へ来ていた。
紺野「ねぇ、ケンちゃん!」
石井「ん?」
石井の振り向きざまに・・・
チュッ!!
石井「・・・なんだよ、いきなり。」
紺野「私たちも、付き合い始ったばっかしの頃に戻ってみようかなぁって!!」
そして、あの二人は・・・
杉本「俺と付き合ってくれるか?」
小川「……はい。」
小川は少し顔を赤らめながら言った。
小川「でも・・・私なんかでいいんですか?」
杉本「もうそんなこと言わないでくれよ。」
杉本は小川の頭を撫でてやり、小川は杉本の胸の中で嬉しげに微笑んでいた。
小川「嬉しい……です。」
帰り道・・・
小川「本当に私なんかで?」
杉本「あ〜、もー!これで何回目だよっ!?」
そこには二人の笑顔。
杉本「次言ったら、何かするからな。」
小川「何だろう?う〜ん…」
小川「ねぇ、先輩?本当の、本当に!私なんかで、い………んっ!?」
チュッ!!
杉本「へへっ!」
小川「もー!先輩ってば!!」
じゃれながら杉本に抱きつく小川は、
どこか梅雨の前のさわやかな夕日の匂いがした。
終