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ピーラー 投稿日:2003/09/01(月) 01:32
初夏の匂いが漂う中、愛は電車に揺られていた。
いかにも田舎らしいほのぼのとした風景が、車窓を流れる。
ふと窓から上を覗けば、そこには広がる青い空・・・・
そして今日は、
愛が憧れていた高校時代の先輩が帰ってくるのである。(高橋)「(先輩に会うの・・・久しぶりだな)」
愛は胸を弾ませていた。
〜回想〜
春風が吹き荒れる・・・・・。たった今卒業式が終わった。そして、愛の大好きな先輩は、
地元から離れてどこか関東の大学へ行ってしまう。(高橋)「上村先輩・・・・・」
上村は結構な人気者で、卒業式が終わると男友達や女生徒、
さらには下級生にまで囲まれていた。しかし愛はまだ高1であり、上村とも少ししか話をしたことがないので、
その輪に入り込むことができずにいた。(高橋)「(私なんか・・・やっぱり無理だよね・・・)」
それでもしばらくは、上村のいる教室の外からその光景をじっと見つつ
上村と接することのできる機会を探っていたのだが、
上村から人の離れる気配がいっこうにない。愛は仕方なく、自分の教室に戻ることにした。
(友達)「愛、そろそろ帰ろっ。」
(高橋)「あ、うん・・・・」
しかしやはり愛には、心にモヤモヤが残っていた。
(高橋)「・・・・あ、やっぱりゴメン。もうちょっと残ってるよ。」
(友達)「ん?なんかこれからあるの?」
(高橋)「ちょ、ちょっとね。」
(友達)「そう。。。わかった、じゃまた明日ね!(なんか様子が変だ・・・)」
ちなみに明日は在校生の終了式である。
(高橋)「うん、じゃあねっ!」とはいえ、どうしたら良いものか。
愛には術がなかった。
そして結局、
愛はどうすることもできなくて、陽が傾くまで一人で自分の教室に残っていた。(高橋)「はぁ・・・私、一体何やってんだろ。」
と、愛は一人呟いた。(高橋)「もういい加減帰ろうかな・・・」
自分のバカさ加減に嫌気がさして、愛はもう帰ることにしたのだが、
しかしその前に上村のクラスに立ち寄ってみることにした。(高橋)「(あれ、静かだ・・・・やっぱりもう帰っちゃったんだ・・・)」
淋しそうな表情を浮かべる。もう上村はいないんだと思いはじめていた。(高橋)「(・・・もうこの学校には上村先輩はいないのか・・・・
結局、最後に何も言えずに終わっちゃった・・・・
私・・・私・・・どうしよう・・・)」愛の目は潤み始め、今にも泣き出しそうになっていた。
(高橋)「(私・・・私・・・・ )」
しかし上村の教室まであと数歩と迫った時・・・・
(高橋)「あっ!!」
(上村)「あ、あれ?愛ちゃんどうしたの?こんな遅くまで?」
上村がふと教室の後ろのドアから出てきた。(高橋)「わ、私の名前・・・覚えててくれたんですかぁ!!」
(上村)「へ??って当たり前じゃん。それよりこんな遅くまでどうしたの?」
愛はあまりの驚きと嬉しさで、涙は止まり、そしてわけがわからなくなっていた。
(高橋)「あ、あのあのぅ、、上村先輩と話が出来たらなぁって!」
(上村)「そうだったの。ごめんな、今までみんなと話こんじゃってたからさ。」
(高橋)「あ、いえそんなことは・・・大丈夫です!」
愛は上村と話せるだけで幸せだった。(高橋)「あれ、他のみんなは帰っちゃったんですかぁ?」
(上村)「あぁ、うん。いったん帰ってからまたどっかで集まることにしたんだよ。」
(高橋)「そうなんですか。(・・・・ラッキー!!)」
教室には愛と上村以外は誰もいなかった。
(高橋)「先輩、東京の大学に行っちゃうんですよね・・・淋しいな・・・」
(上村)「ずっと都会の生活に憧れていたからね。ヒマになったら遊びに来てよ。」
(高橋)「え?ホント!?いいんですか!やったぁ!!」
愛は本当に嬉しそうだ。
太陽は既に沈み、辺りは徐々に暗くなっていった。
そしてしばらくし、愛はふと気付く。(高橋)「あっ…ボタンが全部なくなってる。」
(上村)「へへ、全部取られちゃった。」
上村は苦笑したが愛の表情は落ち込んでいった。
(高橋)「やっぱり、そうですよね。先輩、人気ありますもんね・・・」
(上村)「そんな・・・そんな顔しないでよ。」
(高橋)「・・・・私も欲しかったなぁ。」
(上村)「そうだったの?」
(高橋)「・・・・・・・」
愛はコクリと頷いたまま、黙り込んでしまった。(上村)「困ったな・・・・あ、そうだ!これ上げるよ、愛ちゃん。」
上村は胸ポケットから、小さな葉を1枚取り出した。
(高橋)「・・・・ん?なんですか?この葉っぱは?」
(上村)「この葉を土の上に置いておくだけで、芽が出てきて綺麗な花が咲くんだ。」
(高橋)「えっ!本当ですか!?」
(上村)「うん。。。ほら、ここ見て。」
そう言って上村は葉のギザギザの谷の部分を指差した。
(上村)「ほら、ここから小さな芽があるだろ?これが大きくなるんだ。」
(高橋)「あ、ホントだ!へぇ〜。」
(上村)「だからこれあげるから育ててみてよ。」
(高橋)「あのぅ〜、先輩?他にこれあげた人いるんですかぁ?」
(上村)「いや、俺これ1枚しか持ってないし。だから愛ちゃんだけだよ。
・・・・それがどうかしたの?」(高橋)「あ、いえっ!どうもありがとうございます!大切に育てます!
(やったぁ〜、これ持ってるの私だけだぁ〜!!)」(上村)「きっと愛ちゃんなら大丈夫だ、最後まで育てられるよ。」
(高橋)「はい!頑張りますっ!!」
こうして話が一段落つき、
ようやく2人は辺りが暗くなったことに気付いた。(上村)「あれ?そういえば、これから帰るつもりだったの?」
(高橋)「あ、はい、先輩がいるかどうか確かめてから帰ろうと思ってました。」
(上村)「そうなんだ。たしか家近かったよね?じゃ、途中まで一緒に帰ろうか?」
(高橋)「えっ!?本当ですかぁ!?」
(上村)「あ、うん。」
あまりの好リアクションで、上村は戸惑った。(高橋)「やったぁ!」
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こうして〜回想〜は終わり・・・・・・、そして卒業式から数日後、上村は東京へと向かった。
卒業式の帰り道、愛は上村に東京の住所を教えてもらい、
しばらく経ってからそこに手紙を送った。愛は始め、手紙の返事が返ってくるのか半信半疑だったが、
上村からの手紙は・・・・帰ってきた。――最近どうですか?元気にしてますか、愛ちゃん?
俺はというと・・・ようやくこっちでの生活に慣れてきたんで、
まぁなんとかやってます。
あの葉っぱも順調に育っているようですね。あれ、もう葉っぱじゃないか(笑)
前期のテストが終わったら、そっちに帰るつもりです。
愛ちゃんに会えるのが楽しみですね。じゃ、それまで元気で!!P.S帰る時に迎えに来てくれたら嬉しいな! ――
この葉書を読み返すたびに、愛はにやけた。
そして今、愛はカバンの中にその葉書を入れ、手には小さな鉢を乗せていた。
その鉢には例の植物が・・・・しかもツボミまでつけていた。(高橋)「(ふふ、これ一番に先輩に見てもらうんだ!)」
愛の期待を一心に受け、生きるこの植物。一体どんな花をつけるのだろうか?
初夏の匂いが漂う中、愛は電車に揺られていた。
いかにも田舎らしいほのぼのとした風景が、車窓を流れる。
ふと窓から上を覗けば、そこには広がる青い空・・・・
そして今日は、
愛が憧れていた高校時代の先輩が帰ってくるのである。(高橋)「先輩・・・・どんな感じになってるんだろう?」
まだまだ空港までは程遠い。揺られ揺られて、、、電車はまだまだ走る走る。
(高橋)「ふふ、思い切って・・・先輩に告白してみよっかな?」
先輩への思いがいつしか、「憧れ」から「恋愛対象」へと変わりつつある愛なのであった。
終