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名無し募集中。。。 投稿日:2004/08/13(金) 00:50

夕日が、下校していく女子高生たちと同じ様に俺を照らす・・・
次々と生徒が帰っていくなか、俺・・・進藤茜は校門の前で妹の事を待っていた。
(ったく、遅っせーな・・・あんまり時間ないってのに)
待っている間にも、俺はジロジロと他の奴らに見られ続ける。
(やっぱり、おかしいよな・・・女子高の前に男がいるなんて)
俺だって本当はこんな所にいたくはない!
それでも、妹に頼まれるとどうにも断れない・・・なんせたった一人の家族だから。

それからしばらく経つと、3人組の女子高生が俺の前にやってきた。
「茜兄ちゃんごめん。さゆとれいな2人と話してたら、約束忘れちゃってた」
クネクネしながら話しているこいつが俺の妹の絵里。
「まったく、忘れんなよ。女子高なんかの前で待つのホントに恥ずかしいんだからな」
すると、絵里の後ろの方から声が聞こえてきた。
「あの・・・絵里は悪くないんです。さゆとれいなが長話しちゃって・・・」
確か、右にいるのが・・・道重さゆみで、左が田中れいなだったかな?
「・・・まぁ、いいけど」
「そうだ茜兄ちゃん、さゆとれいなが今日家に泊まりに来たいって言ってるんだけどいいよね?」
「別にいいけど、用事済ませてからだからな・・・」
「うん!!やったね、2人とも」
3人は、手を取り合って喜び合っている。
その光景がほほえましく、俺は安心した。
「ほら、絵里。行くぞ!時間ないんだから」
「分かってるよ。じゃあ、さゆとれいなは6時に家に来てね」
手を振りながら、道重と田中は帰っていった。
それを見送ると俺と絵里も、目的の場所へと向かう。

夕日の道を2人で歩く・・・絵里の表情は目的の場所に近づくにつれて険しくなっていく。
「大丈夫か?」
「うん・・・平気」
俺たちが向かっている場所・・・それは墓。
15分ほどそのまま歩いていくと俺たちは一つの墓石の前にたどり着いた。
「義父さん、義母さん・・・2人が死んでから今日で3ヵ月が経ちました。俺と絵里は2人が残してくれた金で今の所何とか生きていけそうです」
「・・・・・・・・」

絵里は無言で俯いている。
今日ここに来た目的は、今から9年前・・・孤児だった俺と絵里を引き取って育ててくれた・・・
そして、3ヶ月前に事故に遭って死んでしまった義父さんと義母さんの墓参りをするため。
「これからも兄妹2人で力を合わせて頑張っていきます。どうか見守っていてください」
孤児だった俺と絵里は、絵里が6歳、俺が8歳の頃に引き取られ進藤家で育てられた。
実の親の事は覚えていない・・・孤児院の前に捨てられたのが物心つく前だったんだから仕方がないことだけど。
孤児院での暮らしは、けして裕福とは言えなかった。
それでも、絵里を守るという目的があったから・・・絵里のわがままを叶えるため・・・・・生きるためにならなんでもした。
でも、そのためにしたことは出来るなら忘れたい過去だ・・・・・
「また来ますね・・・」
墓前に線香と花を添え、手を合わせて祈ると絵里の方へ振り向く。

「そろそろ帰るか・・・友達が来るんだろ?」
「・・・うん。早く帰ろう、さゆとれいなが待ってるかもしれないから」
絵里は立ち上がると、俺の手を引いて走り出した。
1ヵ月経っても、まだ立ち直れないで強がっているのがよく分かる。
(義父さんと義母さんは・・・優しかったからな。それだけにショックもでかいんだよな)
引き取られた後も、義父さんと義母さんは優しく・・・時には厳しく、本当の親のように接してくれた。
「茜兄ちゃん、ボーっとしてないで早く帰ろう?」
「あ、あぁ・・・」
たった2人の家族・・・俺たちは、これからどんな風に生きていくんだろうか?
今は・・・まだ分からない。

辺りはもう薄暗くなり始め、人影も少なく静かなもので俺と絵里の歩く音だけが静かに響く。
コツ、コツ、コツという単純な音だけが周りを包み込みまるで、俺と絵里だけがこの世界に取り残されたように感じる。
「茜・・お兄ちゃん」
絵里も同じように感じたのか、俺の制服の裾をギュッと握り震えている。
「絵里・・・大丈夫だ。俺はどこにも行かない、お前が1人で生きていけるようになるまでは絶対に・・・・・」
でも、震えはドンドン激しくなっていく。これは絵里の震えなんだろうか?
・・・・・違った・・・これは俺の震えだ。
俺自身の不安、迷い、後悔、全てが俺を責め立てる。
たぶん、絵里がいなければ震えるだけでなく俺はここで泣いていただろう・・・
それを堪えられたのは絵里の前で泣くわけにはいかないから。
俺が泣いたら益々、絵里に負担を掛けることになるって分かっているからだ。
そのまま、俺達は寄り添い歩いていく・・・いつの間にか体の震えは止まっていた。

それから家に着いたのは、6時少し前。だが、田中と道重はまだ来ていなかった。
「まだ、来てないや・・・しかたないお兄ちゃん、家の中で待ってよう?」
「あ、あぁ。そうだな」
玄関の鍵を開けて家に入る。
大して豪華でもない平凡な家、一家が住むには大きくも小さくもなく、部屋数も適度にある。
でも、俺と絵里の2人にこの家は広すぎる。
そして、この家には思い出が・・・俺たちを家族として育ててくれた義父さんと義母さんとの思い出が多すぎる。
そんなことを考えても、時間は戻せない・・・分かりきった答えだけがいつまでも頭の中を巡る。
運命を変えられたら・・・・・何度も思った。
そしていつも行き着く答えは・・・
「せめて、絵里だけでもいつかは幸せになれますように・・・・・」
そう祈りながら、俺は余計な事を考えるのをやめて部屋へと戻った。

部屋に戻り着替えをした後、絵里の部屋に向かう。
コンコン!!
「なぁ、絵里。飯作るけど何食べたい?」
まだ着替えをしている途中なのか、絵里は部屋からは出てこないでドア越しに話をする。
「んーー、焼肉でいいんじゃない?さゆやれいなが来るし、それにみんなで食べられるから」
「分かった。じゃあ、俺は焼肉の用意するからお前は部屋の片づけしといてくれ」
俺は台所に向かうと肉の用意や野菜の準備を始めた。

それから数分後、家の呼び鈴が鳴らされた。
ピンポーン、ピンポーン
「はいはい、ちっと待ってくれよな」
準備の途中で、包丁から手を離して玄関へと向かう。
ガチャッ!!
「こ、こんばんは、あの・・・こ、これ・・・・・」
差し出された両手には買い物袋が握られていた。
「あぁ、悪いな。絵里は居間にいるから適当に話でもしてろよ」
「わ、分かったと。おじゃまします」
「お邪魔します。今日はお願いします」
挨拶をすると、2人は俺に袋を手渡して絵里の待っている居間へと歩いていった。