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Today's Happy Ending 投稿日:2004/10/09(土) 18:45

「宿題教えてくれ」
「嫌よ」
「いいじゃんか、ちょっとだけ!」

ここは幼馴染の石川梨華の部屋。
昨日数学の教師に出された宿題が出来なくて、俺はコイツの部屋を訪れた。
梨華は学年で5番目に頭が良く、こんな宿題5分とかからずに解けてしまうだろう。
対する俺は、学年で下から5番目に頭が悪く、こんな宿題は一生解けないだろう。
そんな訳で、梨華の頭脳をちょっとばかり拝借しようと思うのだった。

「あたしも自分のあるんだからね!」
「ちっ、そんなんだからいつまでも男が出来ないんだよ」
「そんなことないもんっ!あたしにだって彼氏の一人や二人いますー!!」
「お前二股かよ!?女のくせに最低だな・・・」

俺はわざと梨華に冷たい視線を送る。
そんな俺の態度が頭にきたのか、梨華は窓を開け一言。

「出てって!!!」

俺は素早く窓の方に駆けより、一瞬出て行く素振りをする。
だがしかし、こんなところで諦められない。
なにしろ宿題が終わらないことには俺は自分の部屋に帰れないのだ。

俺の部屋と梨華の部屋は幼馴染の王道ってやつで、窓からお互いの部屋へ入っている。
あれは俺が5歳のとき。
いつものように窓から梨華の部屋に行こうとした俺は、
足を滑らせ、梨華の部屋に頭から突っ込んでしまったのだ。
頭からは微妙に血が出ていて、これは危ない、と思った俺たちの親が、
窓際にはベッドを置くようにしたのだった。

窓枠に足をかけた俺は、これまた素早く梨華のベッドに潜り込む。
あの時落ちて良かったと、心の中で神様に感謝する。
俺が落ちていなかったら、窓際にベッドが置いてなかったかもしれないのだ。

「梨華の香りがする・・・」
「ちょっと変態!あたしのベッドなのよ!?」

物凄い剣幕で迫ってくる梨華の腕を引き、強引にベッドの中に引き込む。

「きゃっ・・・」

俺たちは今、丁度枕の端と端に頭を置き、見つめあっているような格好だ。

「離して!」
「嫌だ」
「離して!!」
「嫌」
「離しなさいよ!」
「だーめ」

離して、嫌だの繰り返し。
俺には最初から梨華の腕を離す気なんてない。
ここで俺は、さっき咄嗟に浮かんだ作戦に出た。

「梨華は吉澤の親友だろ?」

俺の突然の問いかけに少しだけ停止してから、梨華が答える。
ここで普通の返答が返ってくれば、第一段階は成功だ。
普通の返答っていうのは、「うん」、とか「そうだよ」とか。
逆に「何でそんなこと聞くの?」なんて返されたら、この作戦は失敗だ。

「・・・うん」

よっしゃぁーー!!!!!
俺は心の中でガッツポーズを決めると、次の第二段階へ移る。

「だからお前はYな。んで、俺が未知数の能力を秘めてるからX。OK?」
「はぁ?意味不明。全然わかんないよ。ってゆーか離して!」

第二段階は、『俺が未知数の能力を秘めている』、に突っ込まないから、
とりあえず成功かな。
このまま勢いで押し切るしかない!と思った俺は、最終段階に突入する。

「梨華が18才、俺が3才のとき、梨華=誰か×俺2乗なわけよ。
それで、俺が誰とかけられれば梨華になれるかってゆー話なんだけど」
「えーっと・・・18=9aよね、だから・・・a=2?」
「a=2ね!」

俺は梨華の答えを頭にインプットする。
それにしてもこんなに簡単に引っかかってくれるとは。
俺の作戦も捨てたもんじゃないな。
などと自画自賛していると、梨華のデコピンが俺のデコにヒットする。

「なーんてね、騙されるわけないでしょ?そんなくだらない質問・・・」
「なんだよ!バレてたの!?」
「当たり前でしょ。ほんとバカなんだから」
「梨華が頭良すぎるんだよ」
「でも二次方程式って中3の内容でしょ?」
「ゲッ!そうなの!?ちくしょーあの教師、俺をバカにしやがって」

気づくと、さっきまで怒り気味(つーか怒ってた)だった梨華の顔が、
笑っていた。
俺、腕離さなくても良い雰囲気?
出来ればこのまま梨華と・・・。

「梨華・・・」

そう呟き、掴んでいた腕を引っ張り、俺の方に梨華を寄せる。
腕を離し、俺の手はそのまま梨華の腰へ。

「ちょっ・・・待って・・・」
「待てない」

俺は梨華の足に自分の足を絡ませ、更に密着する。
可愛い耳に唇を近づけ、そっと囁く。

「梨樺・・・いつもありがとう」
「ひゃぁ!・・っ・」

吐息が耳にかかり、梨華の口から声が漏れる。
俺は真っ赤になった耳から名残惜しく唇を離すと、梨華の唇とそっと重ねた。
火照ってしまった耳には悪いが、今は梨華との甘いキスを楽しむんだ。

「んっ・・んん・」

あまりに長い時間口を塞いでいたので、梨華が息苦しそうな声を出す。
俺が唇を離すと、熱っぽい瞳で俺を見上げる梨華。

「・・・・よ」
「ん?」

よく聞き取れず、耳を近づける。
その瞬間、俺の耳に梨華の大声が響いた。
と同時に、頬に強烈な平手打ち。
勢い余って窓枠に頭を打ち付ける。

「梨樺じゃないよ!!!!!!!!!梨華よ!!!!
彼女の名前間違えるなんて・・・・バカーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

ごめん梨華、俺、バカだからさ。
でも、梨華でも梨樺でも、大好きだよ。

The End