131

どらい 投稿日:2002/03/12(火) 00:18

―卒業―

春がやってくる時、卒業式もやってくる。

式を終え、携帯に一通のメール。

《校舎の屋上まで来て下さい》

またか。と思いつつ、屋上まで足を運ぶ。
あの場所に行くのは何回目だろう。
今日で最後だ。

屋上のドアを開け、外に出てみると、
見覚えのあるうるさくて小さい有名な女子生徒。
プラスαで中学校が一緒。

「なんだ。矢口か」

いつもはうるさい矢口だが、今日は朝から静かだった。

「ごめん。突然呼んだりして」
「なんだよ。だいたい分かるけど」
「うん。あのね、松下君のことが・・・・」
「好きだったって言いたいんだろ?」
「でも! でも、つき合ってほしいとかじゃないの。
 ただ気持ちを伝えたかっただけ。大学も正反対の方向だし」
「なんだ。つき合ってくれ、じゃないのか」
「え?」
「俺、矢口とだったらつき合う気あったのにな」
「・・・」
「ま、確かに大学は逆方向だけどな」
「あたしのこと、好きだったの?」
「んん。まあ」
「何で言ってくれなかったの?」
「だって前“好きな人いるか?”って聞いたとき、別の奴の
 名前言ってただろ?」
「他にも好きな人は居たよ。でも、奥の方には
 いつも松下君のことがあって」
「でもつき合う気はねーんだろ?」
「それは大学が・・・」
「別々になるからってか」
「・・・・」
「・・・・」

「・・・・じゃ、こうしよう。大学卒業したら
 ここに戻って来る。ね?」
「なんで?」
「だって大学行ってる間は会えないじゃん。
 そんなの寂しいもん。故郷に戻ってきたら
 また会えるでしょ」

「・・・わかったよ。ここに戻ってこればいいんだろ」
「うん。その時、もう一度“好き”って言ってもいい?」
「はいはい。順調にいって4年後ね」

「うん。覚えててね。約束だよ」
「へいへい」
「両想いだってこと、忘れないでね。
 あたしも覚えてるから」

そう言うと、矢口は笑顔でちっちゃく手を振り、
走り去っていった。

「忘れっぽいお前が覚えてるわけねえだろ」

矢口が見えなくなってから、俺は呟いた。

今日、高校を卒業する俺たち。
ちょっと大人になった気分。
でも、しょうもない約束をする俺たち。
心はまだ、子供かもしれない。

しばらくしてから校舎へ戻っていく。

温かい風が、春をすぐそこまで運んでいる。

「へっくしょい!」

・・・・・・花粉と一緒に。